創業目線があるリーダーは
それをもつリーダーにしか育成できない
オーナーマインドがある企業とは、全従業員が自分はオーナーなのだと感じて行動する企業である。このことは、主に3つの面から競争力の源泉となる。
1つ目はキャッシュ重視の姿勢で、従業員が経費や投資資金を自分の懐から出るものとして考える。2つ目は行動への衝動で、自社に必要と考えれば、従業員が即座に自発的に行動を起こす。3つ目は反官僚主義で、派閥や権力闘争などの弊害を排し、風通しの良い社風を築こうとする。
本書では、革新志向、現場へのこだわり、オーナーマインドの3つの観点から、「創業目線の恩恵」を数的に測れる仕掛けを提示している。その多寡と企業規模を組み合わせることで、個々の企業の状態を把握する。
具体的には、その状態を大きく4つに分類している。第1に創業したばかりの企業で、創業目線の恩恵は大きく規模は小さい「革新勢力」である。その企業が、創業目線を維持したまま成長して規模が大きくなれば、第2の「尖りある大企業」となる。
しかし、規模が大きくなるにつれ、官僚主義などが出現してきて、第3の「退屈な保守大企業」に移行してしまうケースが多い。さらに、組織の複雑性などの負の要素が増していくと、マイナス成長が続いて企業規模が縮小し、第4の「官僚主義に蝕まれた組織」に陥ってしまう。
本書の後半では、第3や第4のような衰退企業から脱して、理想の状態である「尖りある大企業」に変革する方法を詳述していく。それらは、衰退に至る個々の原因への対処箋であり、それぞれに企業の実例を示しているため、実践的である。
巻末では、原書にはない日本企業のための処方箋を、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパンの会長兼パートナーの火浦俊彦氏が解説している。これを読むと、日本のビジネスマン読者には本書の内容が腑に落ちてわかるようになるだろう。
日本経済の低成長の背景には、本書が指摘する創業メンタリティの衰退がある。火浦氏は、創業目線があるリーダーは、それをもつリーダーにしか育成できないが、創業者は事業の拡大にしか眼中になく、多くの企業でその育成は実現できていないという。
ソフトバンクや楽天、ファーストリテイリングなど、数少ない高成長持続企業においても、この問題は当てはまる。本書が提起する問題と処方箋は、日本企業と社会にとってとても重要である。