企業にとって欠かせないスキルと言われているものにも、他社で必要とされるものと必要とされないものがある。企業は他社でも必要とする「特異なスキル」を身につけてもらう仕組みが必要となる。

 

自社でしか通用しないスキル、他社でも通用するスキル

 仕事における能力やスキルの中には、その企業の中でしか活かせないものもあります。

 随分昔の話ですが、20代の頃、北海道の炭鉱を取材したことがあります。すでに斜陽産業であり、炭鉱は日本でも数えるほどしかない時代でした。山の中に掘られた穴では、ドイツ製の特殊な機械が強烈なパワーを発揮し、岩を力強く削って行きます。この機械は非常に高価なものだそうで、日本に一台しかないとのこと。そして、この機械を操縦するのも高度な技術を要し、それができる従業員は数人しかいないのです。

 いわば、この機械の存在こそ、この炭鉱の競争優位であり、それを操縦する従業員こそ、差別化されたケイパビリティ(組織能力)なのです。その社員はこの企業にとって貴重な存在です。しかし、この会社が炭鉱を閉じたり、あるいは別の機械を導入したりすると、この人の高度なスキルはまったく不要になってしまいます。

 また、この人はこの炭鉱内で欠くことのできない人材ですが、他の企業(この機械を持たない企業)に移ってしまうと、その優位性はまったく評価されません。

 この話は極端かもしれませんが、どんな企業にも「その企業でこそ重宝される知識やスキル」があるのではないでしょうか。同じ企業に長く務め、社内の人間関係を熟知し、稟議を通すには、どの順番でどの人に打診するかが分かる人。このような人なしに大きな組織を動かすのは難しいものです。しかし、同じ企業に長くいたからこそ培うことができたスキルは、他社に転職する際、市場価値はつきません。せいぜい、社内調整力としてのスキルでしょうが、それが本領を発揮するには相当の時間がかかります。