グーグルのイノベーション能力は模倣可能か

 そうそうたるインターネット企業のなかでも、見事な業績と革新性を兼ね備えたグーグルは異彩を放つ存在である。これほどの大成功を、これほどのスピードで成し遂げた企業は、マイクロソフト以来だろう。

 グーグルは、ITやビジネス・アーキテクチャー(システム全体の設計思想)、実験、アドリブ、分析的意思決定、参加型製品開発など、あまり一般的ではないイノベーション手法に秀でた企業である。また、みずからカオスであると認める発想プロセスと、データに基づく的確なアイデア評価法をうまく両立させている。また、選りすぐりの技術者たちを魅了する企業文化のおかげで、社員が急増したいまも、その求人倍率はあらゆる職種で100倍を超える。

 これまでグーグルは、そのコア技術である検索サービスの強化に努め、多彩な新サービスの開発や買収を推し進めてきた。成長性、収益性、時価総額のいずれを見ても、グーグルに太刀打ちできるインターネット企業はない。この順風満帆の状態が永遠に続くとは思えないが、これまでグーグルが歩んできた道程が正しかったことは明らかだろう。

 グーグルは、事業や経営におけるイノベーション・マネジメントに、新たな創造主として、また旗振り役となって、新風を吹き込んできた。グーグルの活動は、ITインフラに基礎を置いているものが多く、それはもはや語り草になっている。しかしグーグルでは、技術と戦略が表裏一体で、密接に絡み合っている。そのため、技術が戦略を決定づけているのか、その逆なのか、どちらとも言いがたい。

 いずれにしても、IT業界の権威たちが何十年も前から唱えてきた夢物語のようなビジョンを、グーグルはまさしく体現しているようだ。そのビジョンとは、ITはビジネスを支えるだけでなく、戦略的チャンスをもたらすものであり、この目的を念頭に置いてITの全体設計を図るべきであるというものだ。

 こうしてみると、グーグルはゼネラル・エレクトリックやIBMの後継者として、インターネット時代の企業経営の手本となる存在といえそうだ。

 我々は「グーグルプレックス」と呼ばれるグーグル本社で、長時間にわたって取材したわけではなく、大きな声では言えないが、その社員食堂でおいしいタダ飯をせしめたこともたった一度だけである。

 本稿執筆者の一人は、グーグルプレックスの中庭で出会ったサーゲイ・ブリンに衝動的に質問しようとしたが、一目散に逃げ出されたうえに、危うく警備員を呼ばれるところだった。