DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの連載「リーダーは『描く』」。今月は、いつもと少し様相が違います。企業1社でワークショップを行う形ではなく、京都大学客員准教授の瀧本哲史さんとさまざまな「カタチ」でつながる4人が集まって描くことになりました。参加されたみなさんは、どんな思いで会場に来られたのか。そして、みなさんは何を描いたのか。当日の模様を追いました(構成・新田匡央、写真・鈴木愛子)。

何も知らされないまま集められた参加者たち

 それは、1本の電話から始まったといいます。
「絵を描くのって、興味あります?」
「その日あたり、東京に出張に来るはずだから、来ますよね?」
 瀧本さんからの唐突な電話でワークショップの参加が決まったのは、京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス研究部門で、瀧本さんとベンチャー支援などのプログラムを一緒に進める中原有紀子さんです。
「でも、面白そうだから行こうかなって思いました」

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瀧本茜さん(左)と瀧本哲史さん(右)

「同僚と一緒に描くのがいいらしいから、どう?」
 そんな言葉で巻き込まれたのは、この「リーダーは描く」シリーズではじめてとなるご家族での参加となった、瀧本さんの奥さま、瀧本茜さんです。
 もともとはクラウドコンピューティング向けソフトウェア開発のベンチャー企業で事業開発をされていたという茜さん。ワークショップ参加時点では休業されていましたが、次はフィンテック関連の仕事に就くことが決まっているといいます。
「絵を描くのは久しぶりなので、少し緊張気味ですね」

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田中康隆さん(左)と中原有紀子さん(右)

 もうひとりは、東京大学大学院修士課程の1年生、人工知能の研究をする田中康隆さんです。田中さんは、瀧本さんが顧問を務める「瀧本哲史ゼミ」というサークルに所属する教え子ですが、瀧本さんからこんな言葉で声をかけられたそうです。
「ちょっと面白いワークショップがあるから、来ないか?」
 中原さんと茜さんは、少なくとも絵を描くワークショップであることは知らされていました。ところが、田中さんだけは内容についてまったく知らされませんでした。
「でも先生が面白いと言うのなら、まあ信じてみようと思って、何の情報もないままここへ来て今に至ります」
 会場となったホワイトシップのギャラリーに、少し遅れて駆け込んできた田中さん。到着早々、「今日はヨガをやるんですよ!」とスタッフから冗談を言われるも、それが嘘か本当かも判別がつきません。壁一面に飾られた作品、テーブルの上に用意された画材などを見て、事態が飲みこめていませんでした。

 見事なまでの周知“不”徹底。
 これも、瀧本さんの「戦略」なのでしょうか。
「どうも、瀧本です。いろいろなことをやっています。今回の人選は、自分の書く本の想定読者となるような人を集めてみました」
 事実、田中さんは瀧本さんの書かれた原稿の初稿を読んでいるといいますが、何となくそれだけではないような気がしてなりません。
 「でも、みんなで絵を描くという行為そのものは、僕にとっては『超』嫌な活動です。だから、ほかの人とは違うことをやりたいと思っていますよ」
 はたして、瀧本さんは何をたくらんでいるのでしょうか。

 このワークショップは、もともと「絵はもっと自由に描いていい」という思いを伝えようと、子ども向けに考案されたプログラムだといいます。それが今では、企業向けプログラムにアレンジした「Vision Forest」という組織変革アプローチとして発展しています。プログラムを共同で提供するのは、アート教育の企画・運営やアーティストのマネジメントを行う株式会社ホワイトシップと、ビジネスコンサルティングサービスの株式会社シグマクシスです。本誌の連載「リーダーは『描く』」では、両社の全面協力のもと実際にワークショップを実施し、その様子を記事化しています。

 ワークショップは、準備体操として絵を鑑賞することから始まりました。
 参加者が挙げたイメージがユニークなので、それをご紹介したいと思います。みなさんも、同じ絵を見てどのようなイメージが浮かぶか試してみてください。

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実際に参加者が鑑賞した絵

 中原さん「和」「日本的」「江戸」「朝と夜」「静か」「生まれてくる感じ」「山と海」。
茜さん「音はあまりなく、静か」「新しいものが生まれる」「襞が動いていて栄養を取り込んでいる」「海の中か体の中か砂漠みたい」。
田中さん「柔毛」「楕円曲線」「電気がない静的さ」「不協和音」「ミクロ的な構造」「痛いという声が聞こえてきそう」「ミカヅキモの匂いがただよう」。
瀧本さん「化学合成」「未知の恒星系」「エネルギー交換」「細胞壁」「微生物」「城壁」「幼稚園のらくがき」。