ある物の価値をめぐり、売り手(所有者)の評価と買い手(非所有者)の評価には差異が生じる。その一因である「授かり効果」の原理と、それを取引交渉に役立てる秘訣について論じる。
交渉では、知覚価値(価格への納得感)のズレがつきものである。
自分が売り手の時には買い手のオファーが少なすぎると感じる半面、自分が買い手の時には売り手の要求が高すぎると感じる。これは実際にモノやサービスをお金と交換する場合にも、単に公正な取引をしようとする場合にも言えることだ。
この価値判断のズレは、「授かり効果(endowment effect)」と呼ばれる。これは、自分が実際に物を所有している時には、それを所有していない場合よりも、その物の価値を高く評価してしまう現象である。
おもちゃを手元に留めるか交換するかを決める子ども(※以降、本記事のリンクはすべて関連英語論文)から、アイデア(発明)や権利(狩猟免許)といった無形資産の価値を判断する大人まで、授かり効果は誰にでも影響を及ぼす。チンパンジーですら、与えられたエサに対して授かり効果を示す。コンサートチケットから自然環境に至るまで、あらゆる対象への価値判断に影響を与えるのがこの現象だ。
授かり効果は交渉の場で摩擦を生む。少なくとも一方がごまかされたと感じたり、悪くすると、両者が物別れに終わったりする。またそれは、市場にもさまざまな悪影響を及ぼす。
私たちが、政府や企業から医療補助や安全施策を提供される場合を考えてみよう。医療補助などのサービスをすでに享受している人が、それをこれから手放す対価として望む金額(売り値)は、まだ与えられていない人がそうしたサービスを新たに得るために(納税や源泉徴収を通して)支払ってもよい金額(買い値)よりも高い。これは、政府が飲料水やきれいな空気、公共スペースなどの公共財を所有する場合も同様だ。政府が企業に対して、水道代、炭素税、開発権という形で販売やリースをして得たい金額は、それらを政府が所有していない場合に個人の所有者から買い上げる際の評価額よりも高い。