外発的報酬は内発的動機を損なう、という知見が近年増えている。しかし新たな研究によって、「きわめて小さな報酬であれば、むしろ内発的意欲の向上と行動変革につながる」という結果が示された。


 ビジネススクールの教職員は、しばしばこう嘆く。「生徒たちは経済・金融のコースにばかり重きを置き、人材マネジメントなどの人文系を軽んじている」。さらに、よくあるこうした姿勢は間違っているのだ、と不満は続く。

 ハーバード・ビジネススクール教授のロザベス・モス・カンターも、MBA卒業生との経験を次のように記している。「卒業後5年も経つと、彼らはよくこう漏らす。金融系のコースはもっと減らして、人文系のコースをもっと履修しておけばよかった、と」

 この課題に、筆者らの1人(フルトミューラー)も直面した。欧州最大のビジネススクール、ウィーン経済・経営大学(WU)で、人材マネジメントの必修入門コースを再設計するという課題を与えられたのだ。

 一般に、生徒の大多数はオンラインでの授業を選択するため、講師と直接対面してのやり取りはほとんどない。言うまでもなく、オンラインで教材への意欲を強く喚起するのは難儀である。学習テーマに心から興味を示すのはごく少数で、ほとんどの生徒は学位を取る過程での単なるハードルとしか見ていない。この状況を一変させることが我々の目標であった。

 近年、オンライン学習は著しく増加している。学習者は多くの場合、履修課題に自主的に取り組むことが期待されている。なぜなら、みずからの意志による学習は、それが自律的(autonomous)である時に最も効果があるからだ。それはつまり、学習テーマそのものに対する興味が動機となっていて、外部からの報酬だけが目当てではない場合だ。

 だが諸研究からも示されているように、自律学習が最も喚起されやすいのは、教室内で学びを後押しする空気が醸成されている時である。その手段として、授業中に生徒に質問を促す、オープンな雰囲気をつくる、信頼感を築く、などがある。こうした従来の手法は、オンライン学習にはほとんど見られない(英語論文)。

 では、オンラインで学習意欲を高めるにはどうすればよいのだろうか。

 すぐに思いつくのは、単に報酬を与えることだ。しかし、自律学習に対する報酬の効果は、控え目に言っても論争の的となっている。実際、研究によれば、期待され目に見える形の報酬は、自律的なモチベーションを損なうことが示されている(英語論文)。なぜなら学習者は、自身の行動を履修課題そのものの価値よりも、外部からの報酬に結び付けてしまうからだ。

 我々は研究を通して、このジレンマの解決策を見出した。

 すなわち、小さな、取るに足らない程度の報酬であれば、オンライン学習で自律的なモチベーションを損なわず、むしろ高めることができるのだ。この研究結果は、『アカデミー・オブ・マネジメント・ラーニング・アンド・エデュケーション』誌2016年3月号に掲載されている(英語論文)。

 小さな報酬の活用については、半世紀以上にわたって研究者の関心を惹きつけてきた。内発的な知識欲に基づく豊かな学習体験を損なわずに、モチベーションをかき立てる手段として、である。しかし、この現象に関する理論的あるいは実験的な研究は多数なされているものの、現実の環境には適用されてこなかった。我々の研究は、小さな報酬の効果について実環境でテストした最大規模のものと思われる。