取材をして誌面に紹介するのが、雑誌の仕事。登場したもらう人の魅力を、読者に存分に伝えたいと思うが、本人のイメージもあり、難しさもある。ありふれた紹介ではなく、意外な伝え方でうまくいくのが理想だ。
人の魅力は、一言で語れない
雑誌の仕事は、ある意味で、取り上げる人を読者に紹介するような仕事です。できるだけ魅力的にその人を読者に伝えたい。特に僕のやっているDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)は、権力のチェック機能としての役割が小さく、その意識を強くもっています。
その人の魅力とは、その人ならではの「らしさ」です。これだけ多くの人がいる中で、その人ならではの固有の魅力がある。業績を飛躍的に伸ばした経営者も決して一様ではなく、それぞれその人ならではの個性や考えが反映されて結果を出されているのです。それを、一人ひとり丁寧に紹介したいのです。
とりわけ難しいのがメディアに頻繁に出る方です。その人の魅力がすでに語りつくされている。しかし、メディアの人間である以上、既存のメディアが伝えてこなかった一面を切り出したい。この意識は常に強いです。
この「これまでになかった一面を切り取る」で気をつけなければいけないのは、本質を外してしまうことです。奇をてらったように紹介しても、それがその人の本質的な個性ではなく、枝葉のクセであったら本末転倒です。差別化という名のもとに、違うことを書けばいいのではない。
一方で取材される側にも、それぞれの「自分らしさ」に対する自負があります。とりわけ独自の考えで新しい世界観を築いておられるような方は、ステレオタイプ的にメディアに紹介されることに対し疑問を持つ。そのため「これが自分の真実なのに」という思いがある方が多いようです。
このような場面に遭遇するといつも考えるのが、「その人の真実を一番わかっているのは誰か」です。意外と本人が一番わかっているとも限らないのではないかとも思いますし、取材者が、短い時間のなかで客観的に見た「こんな人」が真実であるというのも疑問です。
そもそも、その人らしさは多面的で、「やさしい人」「強い人」「真面目な人」などと一言で表現できるものではありません。いい加減だけど真面目な人や、負けん気が強いけど優しい人、ずるいけどピュアな人など複層的で、その絡み合ったものから生まれるのがその人の魅力であり「らしさ」です。
理想的な、人の魅力の伝え方とは
取材などで、信頼関係が生まれると、その人がメディアに見せない一面が垣間見れることがあります。それは本人が表であまり見せない一面かもしれませんが、僕らから見ると非常にその人のイメージが多面的になり、より魅力的に見える。その一面を含めて読者に紹介しようとすると、その見せ方は、本人が見せたい真実と異なるということがあります。
相手から見ると「この人は自分のことを分かってくれていない」ということになるのでしょう。この気持ちも、僕は取材された経験は少ないですが、日常的な人とのやりとりでよく理解できます。
結論は、その人のまだ見せぬ一面を紹介するために必要なのは、相応の信頼関係をつくること。「あの人がそう書くなら、自分の一面としてそれもあるかもしれない」と思ってもらえる関係です。その人の真実など、他人がわかるはずはありません。「こう感じた」に過ぎないのです。それを相手に「そうそう、その通り」ではなく、「なるほど、そうかも」と思ってもらえる紹介の仕方、これが理想です。
本人が紹介されたい見せ方と紹介されたくない見せ方の、わずかにある狭間を狙う。「想定外だったけど、本質的かも」と、ご本人にも読者にも思われるような書き方を目指しています。(編集長・岩佐文夫)