日本に限らず、米国でも高齢化は進んでいる。長寿化を恩恵にするカギは、「多世代社会」の構築にある。若者と高齢者の共存共栄を目指す、地域コミュニティや教育の事例を紹介する。
熟年の聡明なメンターと、賢明な導きを必要としている若い人物。こんな両者の関係を描いた映画が、2015年には何本も公開された。
リリー・トムリン主演の『愛しのグランマ』のようなアートシアター系の作品もあれば、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のような超大作もあるが、紋切り型の師弟関係に捕らわれない設定が目立った。『クリード:チャンプを継ぐ男』では、シルベスター・スタローンが頑固なメンターを演じ、かつての友でありライバルであった男の息子を指導する。
『マイ・インターン』での組み合わせは、アン・ハサウェイ扮する起業家と、かつて『レイジング・ブル』で主演したロバート・デ・ニーロ演じる「シニア・インターン」だ(本作の副題は「経験はけっして古びない」。第二の仕事人生を模索する団塊の世代にとっては、嬉しい知らせに違いない)。ネタバレになるが、デ・ニーロによるインターン氏、形式上は部下なのだが、やがてハサウェイ演じる創業者に大切な教えを授けることになる。仕事、そして人生における成功とは何か、を。
なぜこのテーマが、なぜいま選ばれているのか。ある程度言えるのは、芸術が現実を模倣しているということだ。高齢者の人口が爆発的に増えている現在、主演級の俳優たちも多くが高年期にさしかかっている。大きな観客層である団塊世代は、自分たちの人生に訴えかけ、励ましてくれるようなテーマを演じる馴染み深いスターたちを、ずっと見ていたいようだ。
それは興行成績からも読み取れる。『クリード:チャンプを継ぐ男』の製作費は3700万ドルと控えめだが、全世界で1億7400万ドルの興行収入を上げた。『マイ・インターン』の成績はさらに優秀で、3500万ドルの制作費で1億9500万ドルを稼ぎ出している。
多世代社会(multigenerational society)の可能性が大衆文化に反映されるのはよいとして、逆に「芸術を現実で模倣する」ために私たちができることもたくさんある。これらの映画に描かれているような、世代間での互恵関係を育むことだ。その重要性は、感傷の次元をはるかに超えている。
たとえば、ハーバード・メディカルスクールのジョージ・バイラント教授によるこんな研究結果がある。仕事でも私生活でも、年長者として年少者への助言やサポートをしている人は、そうでない人と比べて幸福である可能性が3倍も高い。そして数々の知見によれば、年少者のほうも、年長者からの庇護やサポートから多くのメリットを得られる。
バイラントはさらに、こうした関係によるメリットは単なる運の問題ではなく、人という生き物の本質であるとさえ主張する。人間は世代を超えて協力し合うように生まれついている、というこの性質を、彼は「生態は下へと循環する(biology flows downhill)」という簡潔な言葉で表している。
もし生態が下へと循環するのなら、社会にも同じことが言えるのではないだろうか。それは高齢者がかつてなく増え、減りゆく若年層の生産性にますます依存するこの社会においては、なおさらであろう。
これを実現するためには、励みになる映像を銀幕に描くだけでは足りない。何十年も続いてきた世代分断の歴史に、終止符を打つべきなのだ。年齢によって分け隔てられる住居や教育制度しかり、経験豊かな従業員を追い出す職場しかり、この問題は人々の人生や生活のあらゆる局面に及ぶ。つまり、全面的に新しいアプローチが必要ということだ。そして幸いなことに、そのための仕組みを考えるうえで、理論にとどまらない具体例がすでにある。