上司の取り組みがいちばんのカギ

 これまでレッドチームは詳しく紹介されてこなかった。政府の機密保持、情報の独占性等々の理由で、レッドチームを活用する組織のほとんどがそれを隠すことが多いからだ。それを著者のミカ・ゼンコは、数年かけてCIA長官からスーパーハッカー、企業幹部にいたる200人以上のレッドチーム実践者に取材し、その中から選りすぐった17の事例を選んで、レッドチームの成り立ちや運営手法、分析のテクニック等々が詳細に解説されている。

 取り上げられた事例は、「シリアの爆撃」「アフガニスタンへの攻撃」など、アメリカ軍をはじめ、各国の軍隊のものが多い。それは、「異なる視点で物事を見る」というレッドチームの思考から最も恩恵を受けるのが軍隊であることを考えれば当然のことだろう。軍の意思決定には、人命、資金、政治資本といった莫大なコストを伴う。深刻な結果を避け、よりよい成果を得るためには、重大な決定を徹底的に考え抜き、反論し、検証することが求められる。レッドチームの手法はそこで大きな役割を果たせるのだ。

 本書では「投資効果の見えにくさ」など、民間セクターでレッドチームを徹底的に活用する難しさも語られているが、東芝やシャープなど、あるいは三菱自動車が陥っている危機を考えると、組織の中に「反対者」を置いておくことの大切さを忘れてはならない。

 そして、第1章で指摘されているレッドチーム運用のベスト・プラクティスの1つ――そして最も重要な事項――を紹介しておこう。それは「上司の賛同」である。レッドチームがいかに素晴らしい意見や情報を提示しても、それが上司に無視されたりしては何の役にも立たない。上司が賛同し、それを関係するすべてのメンバーに伝えることが重要である。

 レッドチーム思考は有益なものだが、それを活かすも殺すも上に立つ者にかかっているということなのだ。