革新的な新製品を世に出す時、既存品との「違い」を強調しすぎれば失敗しやすい。人はあまりに新しすぎるものを、受け入れないからだ。そこで重要となるのが、「違いを馴染み深さで覆い隠す」という方法である。

 アップルなどの企業が成功した秘訣は、「他者とは違う考え方(Think Different)」をしたからだとよく言われる。

 しかし、他者と違うアイデアは失敗に終わることも多い。セグウェイ、ニュートン、グーグルグラスを思い出してほしい。さらに、アップルや他の企業による最大のヒット商品はたいてい、自社が先行者ではなく追随者であった分野で生まれている。世界初のスマートフォンを売り出したのはアップルではなく、IBMだった。

 市場のパイオニアの約半分は、失敗に終わっている。後続の企業、あるいは(あえて)2番目以降に参入する企業のほうが成功するケースはよく見られる。

 では、他と違うこと以上に効果があるのは何だろうか。

 それは、「適度に個性的(optimally distinct)」であること、そしてマーケティングでもそのように見せることである。次の例を見てみよう。

 1800年代末、ガソリン自動車の登場によって交通革命の可能性が拓かれた。人々はかつてなく、遠方まで速く安全に移動できるようになる。しかし、初期の自動車を導入してもらうには、人々の意識が大きく変わらねばならない。過去何千年もの間、主要な交通手段は馬だった。このため、「馬なし馬車」は見かけも概念も奇異であるばかりか、当時まだ道路を行き交っていた馬たちを動揺させることにもなった。これまで慣れ親しんできた乗り物と異なっていたため、なかなか普及しなかったのである。

 ところが1899年、発明家のユライア・スミスが妙案を思いつく。問題は自動車の機能ではなく、人々の心理だと気づいた彼は、「ホーシー・ホースレス(Horsey Horseless)」という車を開発した。フロント部分に、馬の頭から首までの等身大の模型を取りつけた代物だ。この模型は、ガソリンタンクの役目も果たした。

 今日見るとばかげていて、まるで冗談のようにも思える。だが、これが功を奏したのだ。これまでと異なるものをより身近に感じさせることで、黎明期の自動車の普及を後押ししたのである。

 時間を1世紀以上早送りして、トヨタ・プリウスの発売を考えてみよう。プリウスが成功した一因は、完全な電気自動車ではなくハイブリッドであったことである。ハイブリッドであれば、ガソリンエンジンというお馴染みのものを残しながら、省エネを実現できる。

 他の業界にも好例がある。ヨーグルトメーカーのチョバーニを見てみよう。2005年の同社創業時、いわゆる「ギリシャヨーグルト」が米国ヨーグルト市場に占めるシェアは、0.25%以下という微々たるものだった。いまやギリシャヨーグルトの売上げは全市場の50%以上で、チョバーニはその半分以上のシェアを占めるという。

 これほど成功した要因は、他社と違うことをやったからだと考えたくなるだろう。チョバーニは、誰も見たことのない商品を最初に市場に投入した――そう思った人もいるのではないだろうか。ところが、実はそうではない。ギリシャ本国のトップブランドであるファイェ(Fage)が、チョバーニより10年ほど前から米国でギリシャヨーグルトを販売しているのだ。

 チョバーニの成功の秘訣は、他社と違っていたことではなく、適度に個性的だったことだ。プレーンヨーグルトやファミリーサイズの容器にこだわらず、1人前の容器に果物を混ぜるという、米国人に馴染みのあるスタイルで商品を販売した。「ギリシャ」と銘打たれた水切り製法のヨーグルトが、ありふれたパッケージであったからこそ、消費者は試してみようという気持ちになったのである。