ローカルサイトと
ニューヨーク・タイムズの成功
ジャービス氏は、従来のメディアの試行錯誤といくつかの成功事例を紹介して、稼ぐジャーナリズムの手立てを検討していく。
たとえば、人口5万人程度の都市でコミュニティだけを取材対象にしたニュースブログでは、その地に暮らす人々のニーズにきちんと応える記事を配信し続けることで、地元企業のスポンサーにとって費用対効果が大きい広告を実現でき、安定収益を上げているところが多くあると紹介する。
地域のブロガーが複数で連携してネットワーク化することで、規模の大きな広告主を得ることも可能である。また、ローカルサイトが企画するイベントも、きめ細かく運用することで、かなりの収益をあげられているという。地域の小規模な商店などはいまだ十分な広告活動を行っていないから、彼らをスポンサーとするネット広告の拡大チャンスはまだまだ大きいと指摘する。
大手マスメディアの成功例としては、『ニューヨーク・タイムズ』を取り上げる。同紙は印刷媒体では1日100万人弱の読者であったが、オンラインで記事を無料開放して月に6000万人の読者を得た。そうしてオンラインのニュース市場でシェアを確保した後、1カ月間に無料で読める記事の数を20から10に減らし、有料会員に結びつけていったという。
その他、スポンサーによる随時編集が可能なブログ広告、高収益な広告を集める専門性の高いBtoBサイト、自分の意見を発表したり自己表現したりしたいという一般の人々の願望を活用してのコンテンツ収集、そうした場合のITの活用法など、いろいろな具体策について詳述している。
そして、従来メディアの生き残り策のヒントを、グーグルやフェイスブック、ツイッター、ユーチューブなどギークがつくった新しいビジネスモデルの分析とその活用に見出そうとする。そこから、ジャーナリストがイノベーションを起こす必要があると説く。
とはいえ、筆者は、「いくつか試してみるべき策の提案はすでにした。だが、どれも解決への一歩にすぎない。メディア企業は、自分たちの中核を成す商品、サービスが何なのかを再考しなくてはならない。メディアの本質とは何なのかを改めてゼロから考える必要があるのだ」と書く。
本書に著されたメディアの模索やギークの挑戦は、多くの人にとって他人事ではない。インターネットの出現によって、従来のビジネスモデルが崩壊する中で、イノベーションを起こして、社会に不可欠な機能をいかに存続させていくかという課題は、あらゆる業界につきつけられている。