バリューベース・プライシングとは、「差別化された機能の価値」を基に値付けをする手法だ。その最も基本的な考え方と、避けるべき誤解を説明する。
私は15年以上にわたり、価格戦略に関して企業への支援およびMBA受講生への指導をするなかで、気づいたことがある。バリューベース・プライシング(value-based pricing:価値に基づく価格設定)は、非常に頻繁に議論される概念であると同時に、最も誤解されてもいるということだ。
バリューベース・プライシングは、他のどの価格設定論よりもマーケターを――そして価格設定の専門家の多くですらも――混乱させている。さらに、誤解のせいで企業はその活用を敬遠することも多い。その代わりに、コストベースやそれ以外の価格設定法で満足し、十分な儲けを手にできていないのだ。
バリューベース・プライシングとは何か
私は次の定義を採用したい。バリューベース・プライシングとは、特定の顧客層に向けた自社製品について、競合製品との比較による「差別化された価値」を算出し、収益化する価格設定法である。
その原理を理解するために、LEDテレビの新商品を発売するブランドAの例を考えてみよう。当時の市場では最大画面となる、65インチの新型LEDテレビに適した価格を見つけたい。同社と最も競合するブランドBは、最近60インチテレビを799ドルで発売した。どちらのテレビも、サイズ以外の機能・効能については似通っている。ともにWi-Fi機能内蔵で、解像度、HDMI入力端子の数、リフレッシュレート等々も同じである。
ここにバリューベース・プライシングを当てはめてみる。定義の各部分を入念に考慮していこう。
1.顧客層を1つに絞る
バリューベース・プライシングについて第1に知っておくべきことは、必ず1つの特定の顧客層に用いられるということだ(B2B商品ならば、場合によっては単一の顧客企業)。ブランドAのターゲットは、テレビの買い手すべてではなく、大画面テレビの買い手のみである。売り手は、1つの具体的な顧客層を特定しない限り、バリューベース・プライシングを用いることはできない。顧客層が複数の場合には、それぞれにふさわしい「価値に基づく価格」を決めなければならないのである。
2.「次善の選択肢となる商品」と比較対照する
この価格設定手法が機能するのは、ターゲット層にとって代替となる特定の競合他社商品が存在する場合のみである。バリューベース・プライシングに際しては、次の問いを常に自問することだ――「この顧客層は、自社のこの商品が手に入らないなら、代わりに何を買うだろうか?」
価値に基づく価格を算出するうえで、ターゲット層にとっての「次善の選択肢となる商品」こそが、決定的に重要な比較対象となる。まったく新しい商品で同等のものがない場合には、バリューベース・プライシングはそれほど効果を発揮しない。
3.差別化された価値を理解する
次なる作業は、商品のどの機能がユニークで、ひいては競合商品と差別化されているかを特定することである。今回の例では、ブランドAの差別化された機能は画面の大きさのみだ。
4.差別化された価値の価額を決める
最後の、そして間違いなく最も難しいステップは、差別化された機能の価値を金額で見積もることである。つまり、「大画面テレビの買い手は、拡張された5インチに対し、いくらなら支払うのか」を検討することだ。そして、その価額(たとえば150ドルとしよう)を、ブランドBの価格である799ドルに上乗せする。したがって、ブランドAのテレビの「価値に基づく価格」は949ドルとなる。この作業を達成するためには、マーケターは一般的に、コンジョイント分析や顧客への定性インタビューなどの調査手法を用いる。
最後に留意すべきポイントが1つある。差別化された価値の150ドルを、自社がまるまる得られるわけではないということだ。多くの場合(たとえば家の売買や賃貸などで)、交渉というプロセスが入るため、売り手は差別化された価値を顧客と分け合うことになるかもしれない。