トランプに勝利をもたらした「白人労働者階級」とは何か。リベラルの敗因を鋭く突きつける本記事は、米国HBR読者の大きな反響を呼んでいる。
私の義父(夫の父)は、動物の血を使った煮込みを食べて育った。それを彼が嫌いだった理由は味のせいなのか、屈辱感なのか、私は知らない。
彼の父はアルコール中毒で、稼ぎを飲み潰してばかりいたため、家族はしばしば食費の捻出に困っていた。アパートから追い出され、引っ越してはまた追い出されの繰り返しだった。
義父は8年生(中学2年)で学校を辞め、家計を助けた。やがて、まともで安定した職を得るが、仕事が心底嫌いだった。彼の仕事は、博物館の湿度を測る機械をつくる工場の検査官だ。何度か起業を試みたがうまくいかなかったため、本業を38年間続けた。
こうして彼は、貧困から中流へと這い上がる。車、家、カソリックの学校に通わせる2人の子ども、パートタイムで働く妻。義父は働き詰めで、本業の他に2つの仕事を掛け持ちした。地元有力者の邸宅の庭仕事と、ゴミの収集業である。
1950~60年代を通して、義父は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙を読み、共和党に投票してきた。その時代では、彼は先進的なほうだろう。ブルーカラーの白人でありながら、「労働組合なんて利口ぶった奴らの集まりだ」と考えていた。組合費を取るだけで何も見返りをもたらさない、と。1970年からは多くのブルーカラー白人が、彼に倣い共和党に投じるようになった。
そして2016年11月、彼らの推す候補が大統領選挙に勝利した。
この数ヵ月間、ドナルド・トランプに関する私の驚きは1つしかない。彼の成功に対して、私の友人たちがなぜこれほど驚愕するのかということだ。
その根底にあるのは、階級間の文化的断絶である。