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中国での成功がグローバル競争での勝利を呼ぶ
世界最大手の建機メーカーであるキャタピラーは、中国市場にさらに食い込もうにも、決定打に欠けるという問題を抱えている。
アメリカに本社を置く同社は、トラクター、バックホー(油圧ショベルの一種)、ロード・ローラーといった各種機械を製造しているが、中国での販売を開始したのは、毛沢東が死ぬ前年の1975年だった。中国政府は当時、インフラ整備に巨額な投資を傾けていた。このおかげで、中国の建機市場は世界一の成長率を示しており、キャタピラーは、経済成長と近代化に向けて、文字どおり地ならしを進める役割を担った。
中国市場へ参入する外資は、どの業界であろうと中国政府に製品を売ることからスタートするが、これはキャタピラーも同様だった。同国の「改革開放」以前は、政府だけが販売可能な顧客だったからである。
その後、民間部門にプレミアム・セグメントが出現すると、キャタピラーはそのような市場に向けて品質の高い製品を売り始めた。しかし、それ以外のセグメントに手を広げることはけっしてしなかった。
そうこうするうちに、2000年代初め、コマツ、日立製作所、大宇(デーウ)といった日本や韓国のライバルが、低価格ながら信頼性の高い製品を擁し、中国のミドル市場に参入し始めた。
これと並行して、それまでローエンド市場を中心としていた中国企業の一部が、上位市場を狙って、既存企業とぶつかるようになった。すなわち、これら中国企業は、ミドル市場向けに製品の開発と販売に取り組み始めたのである。
ひるがえせば、キャタピラーなど多国籍企業の経験が示すように、中国市場においてプレゼンスを獲得し、これを維持・向上するうえで、きわめて重要な戦場が新たに出現しつつあるといえる。これが、いわゆる「グッドイナフ」のセグメントである。そこでは、急成長しつつある中流層の消費者たちの関心を引くために、十分な信頼性と値頃感を兼ね備えた製品がしのぎを削り合っている。
『イノベーションのジレンマ』[注1]の著者、ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンが「グッドイナフ」という言葉で示そうとしたのは、新興企業が新しい製品やサービスを開発・発売する時、必ずしも製品に完全性を求めなくとも、既存企業に挑戦できるということだった。