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急接近し始めた中国とインド
2006年7月6日、中国とインドの国境で歴史的な出来事があった。世界でこのことを知る人は少ない。ヒマラヤ山脈東部の標高約4300メートルに位置し、中国側のチベットとインド側のシッキムを結ぶナトゥ峠が44年ぶりに開放されたのである。
暴風雨に見舞われながら、在インド中国大使やチベット自治区主席、シッキム州[注1]首相など、数名の高官が見守る中、兵士らが国境に設置されていた有刺鉄線のフェンスを撤去した。
世界中の企業は、ナトゥ──チベット語で「聞く耳」を意味する──に響きわたる変化の風の音に耳を傾けるべきだろう。この標高世界一の税関を再開するという決定は、ゆっくりだが、着実に進行している両国間の関係改善が最高潮に達したことを象徴する出来事といえる。
1962年、中国とインドの間で、短期間ながら流血を伴う戦争が勃発して以来、それまで友好的だった関係がいっきに悪化した。その後、両国の軍隊はにらみ合い、それぞれ武力を配備する。このような状態は、両政府が、国ではなく貧困と戦うことを決定するまで続いた。
ここ数年の間、中国(胡錦濤国家主席、温家宝首相)とインド(マンモハン・シン首相)は新しい関係を築いてきた。中国は現在、インドの国連安全保障理事会常任理事国入りを支持しており、また両国の軍隊は合同演習を行っている。WTO(世界貿易機関)の交渉でも、農産物と知的財産権の国際貿易について、両国は同様の立場を表明している。
両国の間では、古くからの文化的かつ宗教的な結びつきも復活している。2012年より、観光客にもナトゥ峠の通行が許可されることになっており、国境を越えて巡礼する人の数もおのずと増えることだろう。そうすれば、中国の仏教徒がシッキムにあるルムテク僧院を参拝したり、インドのヒンドゥー教徒やジャイナ教徒がチベットにあるカイラス山[注2]やマナサロワール湖などの聖地を訪れたりするのも容易になる。
中国とインドの結びつきは着実に深まっている。一般の人たちを対象に非公式なアンケートを実施したところ、中国人の5人中の4人が、インドと聞けば「ボリウッド映画[注3]を連想する」と回答している。
中国で唯一上映できた外国映画がインド映画だったという時代が終わり、10年以上経過しているにもかかわらず、このような結果が出てきたのは興味深い。この事実を軽視してはならない。学識者のなかには、アジア史の専門家でニューヨーク市立大学バルーク校教授のタンセン・センのように、宗教と文化は商業を円滑にすると主張する者もいる。