日本企業に「御社の強みは何ですか」と聞くと、だいたい同じような答えが返ってきます。その点から言えば、自社の強いケイパビリティを見つけて高めることは、非常に難しいことのように思えます。自社の強みを見つけるためのヒントをいただけますか。

 重要な問いですね。ほとんどの企業は、自社のケイパビリティについてほとんど考えていません。ケイパビリティを考えることなしに、重要なケイパビリティを特定することなどできません。それは、他社との差別化ができないことを意味します。

 重要なことは、企業自らが自社の競争優位がどこにあるのか、それをどのような形で持続させられるかについて考えることです。競争優位を見つけ出すためには、まずはケイパビリティを探すことから始めなければなりません。

 かつて、企業の競争優位が規模にあると信じられていた時期があります。規模が大きければコスト優位性が高まり、流通ネットワークの構築もしやすく、消費者や顧客に対してパワーを発揮できると考えたのです。

 しかし、このような考え方は、現代ではほとんど通用しません。ほとんどの機能はアウトソースできますし、流通ネットワークはすでに構築されています。規模のパワーも、場合によっては成長の足かせになりかねません。規制当局が、大きくなりすぎた企業をコントロールしようとするからです。

 本当に評価しなければならないのは、成長はケイパビリティによってもたらされるということです。そして問題となっているのは、最も重要なケイパビリティは何かということを考えもせずに、多くの未熟なケイパビリティに多額の投資をしていることです。これは優先順位の重要性を理解していない証左です。

 ほとんどの企業には、組織のどこかに差別化のケイパビリティがあります。企業活動がうまくいっている企業には、何らかのケイパビリティがあるはずなのです。それを見つけ出して理解し、卓越したレベルに高めることに専念する。そして、その次の段階として他の領域にも展開する価値があるかを見極めるべきです。

 企業にとって必要で、現段階で自社にないケイパビリティが判明した場合は、新しいケイパビリティとして手に入れる必要があるケースもあります。

 アマゾンは、カスタマーサービスというケイパビリティが必要だと認識しました。その解決のため、すでに優れたカスタマーサービスを構築していたザッポスという企業を買収しました。企業は新しいケイパビリティを自らつくることもできますが、外部から取り込むこともできるのです。そのためにも、自社にとって必要なケイパビリティは何なのか、自社に競争優位をもたらすものは何なのか、経営陣は真剣に考える必要があるのです。

ケイパビリティを重視するときに、リーダーにとって何が重要なのでしょうか。複雑なものを束ねてオーガナイズする力のようなものでしょうか。

 いくつかのケイパビリティを特定することはもちろん重要ですが、ケイパビリティを特定したうえで「戦略を日常業務に落とし込む」ことが重要だと思います。

 そのなかで「自社の組織文化を活用する」ことや「成長力を捻出するためにコストを削減する」ことも、それをサポートするうえで重要になります。これら3つの行動様式も、先にお話しました「従来型の通念にとらわれない5つの行動様式」の一部です。

 リーダーは、自社の組織文化をどうにかして機能させようとしています。ただ、組織文化は、価値観や属性といった抽象的なものではありません。具体的な行動で、戦略の実行を強化するためのものです。企業のアイデンティティを特定するために、組織文化は非常に重要なのです。

 ワシントンDCにあるダナハーコーポレーションは、1時間の予定のミーティングがあったとすると、30分経過した時点でリーダーがミーティングを中断します。参加者がミーティングを継続したければ、あと30分の時間が必要な理由を言わなければなりません。ケイパビリティを実行するために、時間を無駄にしない習慣づけを行うことでそれを強化しているのです。

 もう一つ重要なのは、リーダーシップそのものも変革していく必要があるということです。私たちは、二つの異なる質問によって、リーダーの戦略についての理解度を評価しました。一つ目は「企業の優位性は何か、企業が顧客に約束していることは何か」という戦略の効果に関する質問です。

 もう一つは「その戦略を実行しているか否か」という実行面に関する質問です。調査の結果、効果的な戦略を持ち、それを着実に実行していると答えたリーダーは、全世界のエグゼクティブのうち約8%しかいませんでした。

 リーダーは、企業が何をしなければならないのか、正しく認識できるように変わらなければなりません。単に重要なケイパビリティを見つけるだけでなく、それを日常業務に転換し、部門横断的に協力できるシステムを構築し、社員が具体的に実行できるようにすることが、非常に重要なミッションになってくるのだと思います。