人工知能(AI)とチャットボットの進化によって、顧客への応対やサポートはメッセージアプリ上での自動化ができるようになっている。そのメリットと事例を紹介。
H&M:あなたの服のスタイルを言葉で表すと、どういう感じですか?
私:オーソドックスですね。
H&M:完璧です! あなたにぴったりのスタイルをつくりました。これはポロシャツに合わせたコーディネートですが、いかがですか?
私:いい感じですね。
H&M:素晴らしい! お買い求めになりますか? それともシェアするか、保存しますか?
私:シェアします。
H&M:どのお友だちとシェアしますか?
これは親切な店員との快い会話だ。ただし、私に応対しているのは人ではなく、ボットである。会話はH&M.comのサイトや同社のモバイルアプリ上で行われたものではない。サードパーティーのメッセージアプリ、Kik(キック)でのやり取りだ。
いま、「会話型コマース(conversational commerce)」の時代が幕を開けた。これはオンラインビジネスの用語で、自然言語処理の技術によって可能となる。グーグルやフェイスブック、アマゾン、その他の人工知能(AI)技術と、優れた視覚インターフェースの組み合わせにより、企業は適切かつ個人的で親身な顧客応対を拡張できるようになった。
ユーザーはすでに、メッセージアプリでのやり取りに慣れている。2008年以降、企業によるモバイルアプリの活用は爆発的に増えたものの、その後「企業アプリ疲れ」が当たり前のようになった。対照的に、メッセージアプリはいま最も活況を呈している。今日、グローバルなアプリのトップ10のうち6つをメッセージアプリが占め、全世界で14億人に利用され、年率12%の伸びを見せている。
先頭に立つのは、フェイスブックのWhatsApp(ワッツアップ)とMessenger(メッセンジャー)だ。中国のWeChat(ウィーチャット)には1000万の企業用アカウント(「公式アカウント」と呼ばれる)があり、6億5000万人の月間アクティブユーザーはこれらを通じて、友だちとのチャットと同じように企業と交流できる。たとえばスターバックスに悲しい気持ちを送ると、スターバックスはその気分にマッチした歌を送り返してくれる。
しかもメッセージアプリは、やり取りがバラバラになるeメールとは異なり、顧客と企業との間に連続的なスレッドを提供してくれる。eメールの場合、注文確認メールや、顧客に何らかの事後対応を促すメールすらも、しばしば受信ボックスに埋もれてしまう。だがメッセージアプリでのやり取りは、現在進行中の対話のように展開される。この違いにより、フォローアップの会話がより容易で自然になる。クロスセル、シェアの奨励、提案の依頼などの機会が増える。そして、取引とカスタマーサポートがシームレスになるのだ。