経営者に必要な資質として、数多くの能力を上げることがあるが、実際の経営者は実に多彩。人を巻き込み、事業をつくりだすためには、資質を備える以前に必要なことがあるのではないか。

教科書的な経営者と
実際の経営者にはギャップがある

 先日、いままでお会いしたことがないようなタイプの経営者とお会いしました。

 宇宙ベンチャーの経営者なのですが、ベンチャー起業の創業者とは思えぬほど、見かけは草食系。自分から積極的に事業の説明をしようとするのではなく、こちらの質問一つひとつに、的確に応えてくれます。その話し方は実に物静かなのですが、実に論理的。不要な話は一切交えず、かつ不足している説明もなく、ジャストサイズに答えてくれます。だから質問すればするほど、この人の経営観や事業内容が見事に理解できていきます。

 淡々と語られる言葉と、肩の力が抜けている立ち居振る舞い。こちらを圧倒しようという気がまるでなく、こちらに迎合しようとする気配もない。未知なる分野に挑むための強がりも、不安も微塵も感じさせない自然体。誰からも好かれそうな優しい表情なのですが、その言葉は壮大。宇宙開発という夢のような世界の話を淡々と、地に足のついた説明をしてくれるのです。

 この会社はすでに資金調達も成功し、世界中から多様な社員も集まっています。こういうタイプのリーダーもいるんだと新鮮な驚きがありました。

 ご自身のリーダーシップについてお伺いすると、「指示や命令をするタイプじゃないんです」と前置きして、「自分で考えてみて行き詰ったことをメンバーに相談する、そういうスタイル」と分析されます。圧倒的な能力や経験でリーダーシップを取る人にも見えない。自ら先頭に立ったり、威勢のいい言葉でチームを引っ張ったりする人のイメージがまるでわかない、この方らしい言葉だと思いました。

 メンバーにはソフトウェアや、ハードや電子機器のエンジニアもいれば、ビジネスサイドには金融機関出身者や広告業界の人もいる。国籍も母語もバラバラですが、「ビジョンが明確なので、コミュニケーションのロスをカバーできているのでは」とのことでした。

 最後にご自身のリーダーとしての強みについて伺うと、「絶対にやめないというコミットメント。それが強みだと思っています」と静かに語られました。

 漠然と「経営者に求められる資質」を考えると、多種多彩な能力が浮かびます。ビジョン構築力、ビジネス力、運営管理力、組織をまとめる力、変革力など書き出すときりがない。そして、これらの能力を兼ね備えた人などいるのだろうかと自問してしまう。

 しかし、実際に経営者にお会いすると、この方のように、そのスタイルの多様性に驚きます。

 結局、「必要とされる資質」が先にあるのではなく、経営者自身の強みを「必要とされる資質」を満たすようにしている。そして、足りないものはチームとしてカバーしようとする。そのうえで経営者として唯一必要な覚悟があることに対する自分への自信。これさえあれば、経営者に必要な資質など、あってないようなものではないか。

 この魅力的な経営者にお会いして、あらためて教科書的な資質から考える発想の愚かさに気がつきました。(編集長・岩佐文夫)