卓越したマーケターに特徴的なことは、お話していて、こちらを楽しませてくれること。単に話が上手いのではなく、人を楽しませることが職業病になっているかのようだ。これは、マーケターの仕事の本質かもしれない。
マーケターの仕事は、人が喜ぶ構造を分析すること
先日、CCC(カルチャア・コンビニエンス・クラブ)の増田宗昭さんの講演を聞く機会がありました。実際の増田さんは、人懐っこい笑顔と軽妙な語り口。サービス精神溢れる話し方は、私を含め参加者の心を虜にしました。
私自身、CCCの事業に関心があり、佐賀県の武雄市図書館に行ったり、蔦屋代官山や二子玉川の蔦屋家電などもしばしば行きますが、これらの施設や店舗に入るだけで居心地の良さを味わえる。その正体は、こういうサービス精神溢れる人が作っているからだと納得しました。
さらに増田さんは、ご自身、人生を心から楽しむ天才のような方でした。蔦屋の店舗に入って感じる、「どう、いいでしょ」というライフスタイルの提案を、商品を含め空間全体で迫ってくる迫力の原点も感じました。
そういえば、これまでお会いしたマーケターやマーケティングに優れた経営者は、お会いしていて楽しい人が圧倒的に多い。自分が相対する目の前の相手を、楽しませようとする本能が無意識に動き出すかのようです。
マーケティングという仕事は、製品やサービスの魅力を効果的に伝え、購買へと導く役割です。職種を問わずすべての仕事が、生活者に購買している活動ですが、とりわけマーケターは、それに特化した職種です。日々、自社の商品の魅力を考えるとともに、人がどうすれば気持ちよく、楽しく、そして喜んで行動を起こすかを考えているのです。
どれだけ素晴らしい商品も、それが受け手の心に刺さらないと届きません。結局、扱う商品は異なれど、マーケティングのキモは「人が喜ぶ構造」を探ることではないか。そして、その難しさは、製品やサービス、あるいは店舗やメディアを通して、相手を喜ばせることです。顔の見えない相手がどうすれば喜んでくれるのか。この想像力こそ、マーケターのキモなのでしょう。
それに比べて、目の前の人を喜ばせるのは、反応がリアルタイムでわかるので、簡単なはずです。マーケターにとっては朝飯前。または、リアルで人が喜ぶ構造を学ぶ場としてるのかもしれません。逆に言うと、目の前の人を喜ばすことに注力できないようでは、その先のマーケティングの仕事はさらにハードルが高くなってしまうのではないでしょうか。
最近、日本マクドナルドは、「マクドナルド総選挙」と銘打って、消費者に人気投票をしてもらうキャンペーンを実施しました。最初にこれを見た際「人気は売上げでわかるじゃないか?」と、その意図がわかりませんでした。よく見ると、このキャンペーンには総選挙で1位になったら、商品ごとの「公約」が示されていて、消費者はどの公約を実行してほしいかで投票する仕組みでした。
総選挙の結果は、1位がダブルチーズバーガーとなり、公約通り、一定期間パテを3枚にして同じ価格で販売するそうです。僕が投票していたら、「自分の1票が、マクドナルドを動かしてパテを1枚増やした」気分になるはずで、これは非常に楽しい。こういうキャンペーンは、人を喜ばす精神抜きには生まれなかったでしょう。
ちなみに、2位はてりやきチキンバーガーもお客さんへの「感謝の気持ちを込めて」、てりやきを2枚入りで販売するそうです。これぞ、サービス精神でしょう。(編集長・岩佐文夫)