人は生来、「身の回りの環境をコントロールしたい」という欲求を持つ。この「制御欲求」が強い人に対して製品の新規性を強調すると、マイナスになりうることが実験で示された。


 人々に新製品を買ってもらうには、マーケターがその新規性を強調すべき、というのが定説だ。しかし、これは誤ったアプローチである可能性が研究により明かされつつある。

 新製品の開発とマーケティングには莫大な金額が費やされるにもかかわらず、これらの製品が失敗に終わる確率は一貫して高い。製品のカテゴリーにもよるが、しばしば40%から90%にも達する。さらに興味深いことに、この率は過去数十年の間変わっていないようである。つまり、経済情勢のような一過性の要因からは高い失敗率を十分に説明できないということだ。

 我々は、新製品の受容を阻むもっと確実な要因がないか調べようと試みた。たとえば、消費者の「制御欲求(desire for control)」という心理的要因だ。一連の実験の結果からは、人は制御欲求が強いほど、新製品を受け容れようとしないことが示唆されている(英語論文)。

 制御欲求とは、みずからを取り巻く環境を自分でコントロールしたいという、人間の生来の動機・欲求である。心理学者は、これを人間の最も基本的な欲求の1つとして昔から認識しており、個々人の制御欲求の強度を測る性格尺度を開発している。

 マーケターもまた、消費者の制御欲求をうまく利用しようと昔から試みてきた。たとえば、マセラティのスポーツカーのある広告に登場する人物は、自分の車に「速さ、滑らかさ、制御感」を求めている。ITコンサルティングの多国籍企業であるマイクロフォーカスのウェブサイトでは、自社の製品によって消費者が「コントロールを取り戻す」ことができると強調されている。