既存の事業が行き詰まる企業が多いなか、新しい事業に挑戦する人が望まれて久しい。とはいえ、イーロン・マスクのような想定外のパイオニアは滅多に現れない。しかし、ちょっとした機会で、チャレンジャーに変わる人は相当数いるのではないか。
変革を起こすチャレンジャーは、稀有な存在か?
よく「日本には新しいことにチャレンジする人が少ない」と言われます。新しい企業やプロダクトが生まれるのが、アメリカに比べてはるかに少ない。ここ20年での世界的に画期的な商品やサービスなどが、ほとんどアメリカ企業によって生み出されたのは確かです。
では、新しいものに挑戦する人とはどんな人か。すぐに頭に浮かぶのが、ユニクロの柳井正さんやソフトバンクの孫正義さんなど、一代で企業を飛躍的に成長させた経営者ですが、こういう超人的なチャレンジャーの姿を知れば知るほど、「自分にはあんなチャレンジはできない」と思う人が多くて当然だと思います。
自分の意思で、ゼロから何かを生み出す人は、本当に素晴らしいし、稀有な存在であることは間違いありません。しかし、こういうカリスマの数を数えたところで何も始まらない。
実は、きっかけさえあればチャレンジャーに変わる人が、日本にも相当数いるのではないか。そんな仮説を最近抱いています。
ベンチャー経営者のストーリーにも、起業のきっかけが「ひょんなこと」というケースは珍しくありません。京セラの稲盛和夫さんも、仲間の後押しで断りきれず同社を創業するに至りました。DeNAを創業した南場智子さんも、コンサルタント時代にクライアントに出した事業企画について、「だったら自分でやってみたら」とクライアントから言われたのが起業の始まりです。ライフネット生命の出口治明さんも、投資家である谷家衛さんからのオファーを受けたことで、戦後初の生命保険会社を創業させました。
このような例は枚挙に暇がありません。
もっと身近な例を考えてみましょう。人前で話すのが苦手な人が頼まれて披露宴でのスピーチ依頼を承諾する。新規プロジェクトのメンバーとして白羽の矢が当たり、それに挑戦してみる。こういうパターンは多くの人が経験するのではないでしょうか。
もちろん、新しいことにチャレンジする人と既存の秩序を守ることを好む人の両方がいますし、社会や企業においては、どちらのタイプも欠かすことができません。しかし、いまの日本の置かれた状況に限っていえば、社会も企業も新しいことにチャレンジする人が、もっと増えることが確実に望まれます。
そんな状況で、カリスマ型を探すより(むしろ、彼らは黙っていても頭角を現す)、埋もれたチェレンジャーを発掘し、彼らの冒険心を活かすことが大切ではないでしょうか。
最近思うのですが、リスクやチャレンジを能動的に取りに行く人は少数でも、受動的にこれらを受け入れる人は一定数いるのではないか。自ら積極的に開拓の旅には出ないが、そういうチャンスに巡り合ったら旅立ちそうな人。孫さんや柳井さんといった「能動的なチャレンジャー」と比較して、このような人を「受け身のチャレンジャー」と言えます。
受け身のチャレンジャーは、焚き付けられると自身でも驚くような挑戦をする。ちょっとしたきっかけ、出会い、巡りあわせで、ただのフォロアーが、変革のリーダーとして狼煙を上げるのです。
特に組織を率いる人は、自分の組織に静かに生息する「受け身のチャレンジャー」を探す努力を、より一層する価値はあると思います。小学校の頃、目立ちたがり屋や注目を浴びると顔色が変わる子どもがクラスの中に一定数いたように、企業の中にも相当数の「受け身のチャレンジャー」が眠っているはずです。(編集長・岩佐文夫)