心の知能(EI:Emotional Intelligence)に基づくリーダーシップを提唱するゴールマンとボヤツィスが、より簡素化された最新の枠組みを紹介する。共感やプラス思考ばかりに注力すると見落としがちな、EI特性がある。
エスターは小さなチームのマネジャーで、人望がある。親切で礼儀正しく、他者のニーズを敏感に察知する。彼女は問題解決者であり、失敗を好機と見るタイプだ。そして、常に意欲があり、同僚に安らぎを与える。
エスターの上司は、これほどまでに一緒に仕事をしやすい部下を持てて幸運だと感じており、彼女の心の知能(EI:Emotional Intelligence)が高いことをしばしば称賛している。実際にエスターも、EIは自分の強みの1つと捉えており、リーダーシップ開発では、少なくともこの部分は取り組む必要がないことが幸いだ、と思っている。
しかし、奇妙であった。これほど前向きな思考の持ち主であるエスターが、自身のキャリアで行き詰まりを感じるようになったのだ。会社から期待されているレベルの仕事ぶりを、どうしても示せずにいる。「心の知能も、これ以上は役に立たない」――そう彼女は思い始めた。
エスターと上司は、よくある罠に陥っていた。すなわち、心の知能に対する解釈が狭すぎるのである。彼らはエスターの社交性、思いやり、好感度にのみ注目している。そのため、EIの他の重要要素――彼女をもっと強く、有能なリーダーにする特性――を見逃しているのだ。
エスターのような親切でポジティブなマネジャーに、不足しがちなスキルがある。たとえば、部下に厳しい内容のフィードバックを提供する能力、周囲の反発を承知で変革を進める勇気、既存の枠組みから外れて思考できる創造性などだ。しかし、これらの不足は、「エスターに高いEIがあることの結果」ではない。単に、「彼女のEIスキルはバランスが取れていない」ことを示している。
我々は30年以上にわたり、卓越したリーダーたちの強みを研究し、EIと優れたリーダーシップのモデルを開発するなかで、明らかにしてきたことがある。リーダーは、特定複数のEI特性をバランスよく備えることで、まさに上述したような難しい課題に対処できるようになるのだ。