フラット化するのはこれからか
『1984』の世界に向かうのか

 そして、第3の良さ、ブロックチェーンが社会に与える本質的な影響を論じているところが、類書にない本書の面白さだ。

 ジャーナリストのトーマス・フリードマンは、インターネットなどのITの発展により、米国など先進国で行われてきた仕事がインドなどの新興国に流れ、知識が共有され、世界の所得格差が縮小すると主張し、『フラット化する世界』を著した。しかし現実に起きたことは、GM(ゼネラルモーターズ)などの古い大企業が衰退する一方、グーグルやアップル、アマゾンなどITを駆使した新しい大企業が台頭し、米国国内で、企業の主役が代わっただけだった、と著者は指摘する。

 なぜ、フラット化しないのか。いくつかの理由があるが、根本的な要因として著者が指摘するのは、第1にインターネットは経済的な価値を簡単には送れないこと、第2にネットでは信頼性の証明ができず、結局、規模の大きさがものを言う構造が変わらないからだと言う。

 しかし、前述の通り、ブロックチェーンはこの2点をくつがえすものであり、それがために、世界がフラット化する可能性は高いという。その前提として、「個人や組織を信頼しなくても安心して取引ができるシステム」により、分散自立型社会が出現する。

 とはいえ、この新しい技術も、組織の硬直性や規制、人々の考え方次第で、ネットと同じように既存勢力に押しとどめられてしまうかもしれない。通貨に関して言えば、中央銀行がブロックチェーンの技術を使って仮想通貨を発行し、個人や企業の資金の流れを完全に把握し、コントロールできるようになるかもしれない。これは、ジョージ・オーウェルが描いたビッグ・ブラザーの支配する小説『1984』の世界である。

 ブロックチェーンがさらに発展した後、到来するのは、分散自立型社会か、中央集権管理社会か。