どの業界でも働き方改革において、長時間労働の是正が議題にあがっている。しかし、労働時間の短縮を実現するには生産性の向上しかありえない。そして、生産性の向上とは人材育成に他ならないのだ。

人は仕事によって、仕事の力が鍛えられる!?

 いまあらゆる業界で、長時間労働の是正が課題となっています。「働くこと」の比重が高いことによって、「生きること」そのものに多くの弊害が生まれてきている現状があります。そして企業は業績を落とさずに労働時間を減らす工夫を余儀なくされているのです。

 この解決策は明らかに生産性と人材育成です。

 労働時間を減らすからと言って、業績を下げてもいいという企業は稀です。むしろ、いまのようなデジタル変革を迎えた混乱期では、組織の改革に取り組みながら、新しい成長事業を構築するという難しい課題とともに労働時間を減らさなくてはいけません。これは一人ひとりの生産性を上げるしか方法はありません。

 10時間かかっていた仕事を8時間に、週5日で上げていた売上げを週4日で実現する。こういうことが実現しない限り、いくら制度や号令だけで社員を早く会社から追い出しても、隠れ労働が発生するだけです。

 そして、この生産性の向上を実現するのが、人材育成に他なりません。1時間かかっていた仕事を45分で処理できるようになる。これは能力アップそのものです。かつてある経営者に、「優秀な部下にはどういう育成方法を取りますか」とお伺いしたところ、「仕事を詰め込みます」と即答されました。その心は、やらなければいけない仕事を多く与えると、時間内で終わらせるための工夫をせざるを得ない。だから、能力アップする、ということでした。

「詰め込む」という表現は乱暴ですが、確かに、仕事の力は仕事で磨かれるものです。経験を積むことで、状況の判断能力と応用力が付きます。しかし、経験で重要なのは量よりも質です。簡単にできる仕事を繰り返した経験と、未知で多様な仕事の経験とは雲泥の差です。ここでも長時間働けば人材育成が実現するわけでもないのが明らかです。

 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの最新号では「人材育成」を特集しました。言わずもがな、いまや最大の経営資産である人の育成なくして事業の成長はありえない、という思いで編集しました。この中で、『生産性』の著者である伊賀泰代さんに執筆いただきました。マッキンゼーの元人材育成マネジャーである伊賀さんは、この中で、そもそも「育てたい人材のタイプに問題はなかったか」と苦言を呈されています。つまり、仕事の仕組みを変え、組織の生産性を圧倒的に高めるリーダーこそ、育成すべき人材像であると主張されています。

 生産性の向上には、人材育成が欠かせないことをこの特集でも主張することができました。

 先日伺った話しですが、あるIT企業では、「週に3時間、いまの仕事以外のことをすること」というルールをつくったそうです。グーグルの「20%ルール」に近い考えの制度ですが、「まとまった3時間」にいまの仕事以外のことを課するという強権発動的な仕組みです。社員はその時間に、職場を離れるのももちろん自由。語学を勉強しようが、教養を高めようと何をしてもいいが、やるべき業務をしてはいけない。何とこの会社では、この制度を導入してから業績が向上したことが数字で明確に表れたそうです。

 これはまさに生産性が向上した好例です。そして、この毎週の3時間の経験の質が、きっとその人の成長につながっているでしょう。

 仕事を通じて成長を実現する。しかもそれは、働く時間を増やすことではなく、生産性の向上を通して実現する。そんな事例が増えることで、働き方改革は進むのだと思います。(編集長・岩佐文夫)