「世代循環の法則」

 中世には、フランス中部の村々に伝わる珍しい風習が、旅人たちの伝承を通じて各地に広く知れ渡った。村やその周辺で何か大きな事件が起こると、そのたびに年長者が子どもの耳を殴り、一生その出来事を忘れさせないようにしたというのだ。

 中世の村人たちと同じく、現代を生きる我々もまた、さまざまな出来事を深く胸に刻んでいる。アメリカ人であれば、真珠湾攻撃、ジョン F. ケネディ元大統領やマーチン・ルーサー・キング牧師の暗殺、スペース・シャトル〈チャレンジャー〉の爆発、9.11同時多発テロなどが、それに当たるだろう。それぞれの出来事が起きた時、自分が何をしていたのか、けっして記憶から消えることはない。

 我々は大人になると、「いまの自分は多くの意味で、これらの出来事の積み重ねによって成り立っている」と悟る。ただしそこからの影響は、何歳の時に遭遇したかによってまったく違ってくる。

 世代の特徴というものは、こうして生まれる。したがって、人生のどのステージにおいて、どのような出来事や世相に接したかによって、世代は形成される。どの世代も、未成年から青年、壮年、老年へと、人生のステージを移行するにつれて、意識や行為が成熟していき、世のなかに新しい風潮をもたらす。つまり、人々の考え方や行動を大きく規定するのは、実年齢ではないといえる。

 いま40歳の女性は、別の時代の40歳の女性たちとはそれほど似ておらず、むしろ実年齢よりも少し離れている同じ世代に属する人たちとの共通点が多い。同世代の仲間とは、思い出、言葉づかい、習慣、信条、人生の教訓などを共有しているからである。

 また、世代を特徴づける法則があり、これを知っておくと、将来のトレンドを予測するうえでも役に立つ。20年後の40歳について予測したいならば、現在の40歳に目を向けてはいけない。現在の20歳に着目するのである。

 実際、同じ年齢でも、時代によってその特徴は大きく異なる可能性が高い。たとえば1964年、カリフォルニア大学バークレー校のスプラウト・ホールで何があったか、思い起こしてほしい。当時、ホールを占拠した学生たちは、「僕らは学生なんだから、折ったり、書類差しに入れたり、切ったりしないで」と書いたコンピュータ用パンチ・カードを、体全体に巻きつけていた。彼ら彼女らは、大学が自分たちを型どおりにしか扱わないことに、こう揶揄して反論したのだった。

 第2次世界大戦が終わってからというもの、アメリカ社会は「沈黙の世代(サイレント・ジェネレーション)」に属する従順な学生たちに慣れ切っていた。ところがそこに、新しい世代、すなわち戦後育ちの「ベビーブーマー」が登場したのである。