スクワッド(分隊)、トライブ(部族)、チャプター(支部)、ギルド(協会)…これらは、スウェーデンのスポティファイ本社が採用する独特の組織形態だ。その目的と効果は何か。


 従業員の意欲を高める最大の要因は、自律性(autonomy)かもしれない。上司に常に監視されていたら意欲が沸くという人、ましてや心を動かされ奮起する人などいるだろうか。

 とはいえ、自律性は諸刃の剣でもある。創造性と積極参加を促進する一方、その自由が無制限なものであれば、曖昧さと非効率を招き、組織を混乱に陥れかねない。

 その適切なバランスを見極めるには、3つの課題に取り組む必要がある。

 1.「自律性」と「責任」を両立させる

 自律性のカウンターバランスとして不可欠なのは、結果に対する厳密な責任、さらにはその結果を出すための態度・行動に対する責任である。企業は、従業員の行動の枠組みとなる戦略と目的・意義を確立しなくてはならない。戦略の実行において必要なのは、測定可能な目標、進捗の定期的な測定、その過程で活動をチェックするためのフィードバック体制、そして目標の達成と失敗に対する適切な対応だ。

 しかし賢明な企業は、すべてが簡単に測定できるわけではないこと、さらには、何でも測定すべきでないことを知っている。頻繁な「検温」と過剰管理は非効率であり意欲を削ぐ、とわかっているのだ。そして(管理と自由の)境界条件を設けて可視化し、期待要件を明確にしている。

 このような企業の従業員とチームは、みずからの行動が責任を問われること、さらにはどこが「ガードレール」なのかを心得ている。目標を理解しており、それを達成する方法に関しては、それがガードレールの内側においてならば、かなりの自由を有している。

 自律的に動くチームと個々人にとって、選択を導く指針となるのは、目的の明確さだ。同時に、我々の言う「解像度が高い戦略」――従業員の進むべき道を明瞭に照らすもの――も指針となる。

 2.「イノベーションの自由」と「確立されたルーティンの順守」を両立させる

 一貫性による成果とイノベーションの成果、両方を正しい割合で、組織の適切な部分からいかに引き出すか――これは、アートでありサイエンスである。

 イノベーションの自由は多くの領域で不可欠だ。新製品の開発、あるいは自社のバリューチェーンやビジネスモデルにおいて、デジタル変革による大々的な変化が起きている部分を考えてみよう。そうした活動領域ではイノベーションのスピードが決定的に重要であり、自律性、少人数チーム、組織的機敏性がスローガンになる。

 対照的に、標準化されたアプローチが適している領域もある。ここでは着実な成果が不可欠であり、共通化された手段、ベストプラクティス、そして強制的なルーティンが、実行のスピードをもたらす。重視すべきは再現性と効率だ。

 一方の領域ではイノベーションに、他方では実行にスピードが求められ、成果を出す方法も異なる。双方をうまく両立させるために必要なのは、それぞれの領域でどんな方法を優先すべきか、適切なオペレーションをどう設計すべきかを知ることだ。

 これらを誤れば目標をめぐって混乱が生じ、成果につながらない。

 3.「方向性の一致(alignment)」と「統制」のバランスを取る

 これは先述の2つとも強く関連する。

 伝統的な階層型の組織では、マネジャーが部下の仕事を指揮し、それによってより広範な組織目標との方向性を合わせている。統制範囲(1人のマネジャーが管理する人数)は比較的限られているため(たいてい8人かそれ以下)、部下の仕事をしっかり監督できる。この組織形態は、ある程度安定的な事業環境では有効だ。変化のスピードが緩やかで、戦略と方針の見直しは年次の事業計画で事足りるという場合である。

 よりダイナミックな事業環境では、イノベーションが数ヵ月~数年ではなく数日~数週間のサイクルで起こり、仕事の多くが部門横断的な性質を伴い、少人数のアジャイル(機敏)なチームで遂行される。こうした環境の場合、伝統的な階層型組織では変化への対応と革新が遅れてしまう。自律型のチームを導入する企業は、マネジャーによる統制に頼らずとも、チーム間で整合と連携が図られる方法を見出す必要がある。過度の統制をせずに従業員たちの方向性を一致させることは、やはりアートでありサイエンスだ。

 これら3つの課題に、どう取り組めばよいのか。我々が好例として挙げたいのはスウェーデンの企業、スポティファイである。