「インテル、入ってる」の宣伝コピーは、消費者がパソコンを購入する際、その部品である半導体が重要な選択要因となることを象徴した。同様のことが自動車でもあり得るか。そんな疑問が現実味を帯びるニュースが続いている。回答のカギを握るのがビジネスエコシステムである。

トヨタ自動車はエヌビディアと
自動運転車の共同開発へ

 5月10日、画像処理半導体(GPU)でいま最も注目される米国のエヌビディアが、トヨタ自動車と自動運転車の開発で提携すると発表しました。自動運転システムで中核となるコンピュータを共同開発し、トヨタ車に搭載していく計画です。

 エヌビディアは、AI(人工知能)の処理を高速化する深層学習用GPUの最有力企業で、すでにフォード・モーターやテスラモーターズ、メルセデス・ベンツなどの自動車会社、最大手部品会社のボッシュと提携しています。

 一方、今年3月、半導体最大手のインテルが、運転支援システムでエヌビディアと競合するイスラエルのモービルアイを約150億ドル(約1兆7000億円)で買収しました。その2か月前の今年1月には、インテルとモービルアイは、ドイツのBMWと共同開発した自動運転車の公道走行試験を年内に始めると発表していました。

 スマートフォン向け半導体で最大手のクアルコムは昨年10月、車載半導体最大手のオランダのNPXセミコンダクターズの買収を発表しています。また、グーグルの持ち株会社であるアルファベットの自動車関連子会社のウェイモは、自動運転技術でフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と提携するとともに、昨年12月からはホンダとの共同研究の検討を始めています。

 自動運転というイノベーションを、商品化して社会に普及させるべく、中核技術をもつ企業と既存の大企業が集団となって協働しています。この一種のコミュニティを、エコシステム(生態系)と呼びます。上記の動きは、異なるエコシステム間の生存競争です。

 5月10日発売のDHBR最新号6月号の特集「ビジネスエコシステム──恊働と競争の戦略」では、このエコシステムをいかに自社の生き残りと繁栄に結びつけるかについて、いろいろな視点からの論考を集めました。

 まずは、自社が生息するエコシステムが、既存のエコシステムを含めた他のエコシステムに打ち勝つ必要があります。その競争においては、エコシステム内の他の企業とは共存共栄を図り、仲間を増やし、消費者に対する自分たちのエコシステムの魅力を増大していくことが重要です。次に、エコシステム内での同業他社との戦いになります。

 1980年代のパソコン黎明期において、IBMはハードウェアやソフトウェアの仕様を外部にオープンにして、いろいろな企業が自由に参入して創意工夫を施すことができる戦略をとり、IBM互換機市場というエコシステムを急拡大させました。その結果、アップルコンピュータという別のエコシステムとの競争に勝利しました。

 ただし、その後、パソコン市場で巨額の利益を得たのは、中核部品の半導体を供給するインテルやOS(オペレーティングソフト)を担ったマイクロソフトでした。また、IBMはパソコン事業部門を売却しましたが、アップルのパソコン事業はいまだに存続し収益をあげています。エコシステムでの協働と競争は複雑で、極めて戦略的なマネジメントが求められるのです。

 冒頭に述べた自動運転のエコシステム間競争が激しくなっている背景にはAIの進歩があり、これは自動車産業だけでなく、あらゆる産業においてイノベーションを促しています。そして今日、そのイノベーションの成否を決める一因は、ビジネスエコシステムにあります。新たな思考法で戦略を立案していく必要があります。そのために本誌が役に立ち、勝ち残るエコシステムの中で、より多くの日本企業が生息できることを願います。(編集長・大坪亮)