アマゾンが、オーガニック製品の品揃えで人気を博すホールフーズを買収するというニュースは、大きな衝撃を与えた。この動きは、食品業界のみならず、小売業界全体に至急の変革を迫るものである。


 アマゾンは2017年6月、ホールフーズ・マーケットを137億ドルで買収する計画を発表した。このスーパーマーケットチェーンは、450以上の販売店を擁し、食品小売業界のノウハウを知り尽くしている。このニュースを受けて、アマゾンの株価は2.4%上昇し、時価総額は110億ドルも膨らんだ。

 同時に、スーパーバリューの株価は14.4%急落し、クローガーは9.2%、スプラウツも6.3%下落。あらゆる食品小売企業、そして従来型の小売企業の大半から、3ヵ年経営計画をシュレッダーで裁断する音が聞こえてきそうだ。

 小売業は今後、デジタルとフィジカルの体験を融合する方向へと移行していく。この見方に驚きを示す業界関係者は皆無だろう。しかし、アマゾンの発表により、その変化の性質とスピードはいっそうの痛みを伴うことになる。ほとんどの従来型小売企業が、次に挙げる不確かな3つの前提に基づいて経営計画を立ててきたからだ。

(1)自社はアマゾンが店舗を増やすよりも速いペースで、デジタルのケイパビリティを強化できる。

(2)アマゾンが競争力を有する場所(eコマース)は、いまだに米国全体の小売売上高の約8%、つまり年間4兆9000億ドルのうちの3910億ドルにすぎない。

(3)実店舗ベースの小売業は次のやり方で、利益を生みながらデジタル世界に移行できる。まず、アマゾンにとって最も浸食が難しいであろう、利益率が特に高い店舗と商品カテゴリーに回帰する。一方で、eコマースの売上げを増やす際には、利益の希薄化を避け、利益率の高い店舗での売上げと食い合わないよう慎重に進めればよい。

 アマゾンの今回の発表があるまで、食品小売業界はそれほど安全な場所だと考えられていた。

 アマゾンが顧客にあらゆるものを販売しようと試みていることがわかったいま、小売業界で安全な分野はない。食品業界に参入できるということは、同社の矛先が百貨店(中国でのアリババが例)、家具、家電、あるいはドラッグストアに向いても何ら不思議ではないことを指す。

 さらに、同社が食品小売りを活用して顧客への配送頻度を増やすことにすれば、(食品以外にも)実に広範な商品が、配送車に簡単に積み込まれて売上げが増えることになる(あるいは店頭受け取りサービスを提供する店舗が増えるかもしれない)。

 今後の唯一現実的な小売戦略は、デジタルとリアルのケイパビリティ融合をアマゾンよりも素早く、かつ効果的に進めることだ。これはつまり、小売企業が2つの重要なケイパビリティに関して、アマゾンと真っ向から競争する術を学ばなければいけないことを意味する。それらは、アジャイルなイノベーションと、そのための費用のマネジメントである。

 アマゾンの最大の競争優位性は、eコマースのネットワークではなく、イノベーションへの原動力だ。

 この強みを理解するため、同社のイノベーション事例をまとめた下の表を見るとよい。現在のベッド・バス・アンド・ビヨンド、JCペニー、スーパーバリューよりも小規模だった2007年以前でさえ、同社は素晴らしい成果を残している。遡ること2005年には、アマゾン・プライムの計画・開発・立ち上げが約2ヵ月で行われた。

 すでに終了したイノベーションの試みにも注目してほしい(表の赤字部分。全事例の約25%を占める)。多くの小売企業はそれらを失敗と捉えるかもしれないが、大半が後の成功につながる貴重な学習機会となっている。たとえば、オークションやZショップス(他業者による固定価格でのバーチャル店舗)は終了したが、どちらもアマゾン・マーケットプレイスの大成功の礎となった。

 では、従来型小売企業は、アマゾンの絶え間ないイノベーションの流れに立ち向かうためにどうすればよいのだろうか。