その大きな妨げとなっているのが、チェンジマネジメントという仕事そのものだ(私たちは皆、これに携わっている)。これまで、チェンジマネジメントはデータ主導のモデルに基づいていなかった。変革の実行者がデータについて語る場合、それは一般に、根本原因の分析ワークショップなどで生成された、定性的情報である。

 というのも、チェンジマネジメントの問題の非常に多くが、人間の行為に関係しているからだ。文化、リーダーシップ、モチベーションといった形のない因子は、実証分析に容易にはなじまない。したがって、管理された環境下で実験を行い、原因と結果を検証して、具体的な変革介入因子が意図した成果を上げるかどうかを実証するのは、きわめて難しい。

 学術的な研究も、それほど助けにはなっていない。チェンジマネジメントのほとんどのモデルは、1940年代の研究に根差しているが、それは小規模な集団(複雑な大組織ではなく)がいかに変化に適応するかを説明するよう、設計されたものであった。

 チェンジマネジメントに対する最も一般的なマネジメント・アプローチは、ジョン・コッターの「変革の8ステップ」モデルだ。これは研究者たちから、「モデルは理にかなってはいるが、それを裏付ける経験値が少ない」と指摘されている。同モデルを検証するためのその後の研究も、不首尾に終わっている。

 リーダーシップの効率性やモチベーション、文化の測定の仕方をめぐっては、学会で熱い論争も繰り広げられている。同分野の先頭に立つ学者による最近のある研究は、「文化」に皆が合意する定義はない、と結論づけた。また、「文化」の測定に用いられるツールは、方法論的に欠陥があるか、あるいは何かまったく別のものを測定するよう設計されているかのどちらかである、とも結論づけられている。実験と、査読を受けた所見の再現とを通して知識を確証するという、まともな科学の土台とはなっていないということだ。

 チェンジマネジメントが成功しているケースでは、技術と経験のあるプロフェッショナルが、事業の変革目標へと通じる実践方法を効果的に組み合わせている。問題は、彼らが実験と実証に基づく科学者ではなく、「職人」である点だ。チェンジマネジメントを成功させてきた人々は、他分野ではごく当然となっている証拠の提示にさえ苦労している。

 数多くの変革を成功させてきたにもかかわらず、マーケティングやサプライチェーンのプロフェッショナルが当然のように提示できる、原因と結果の関連性を実証するデータを持っていない。チェンジマネジメントに投資するよう訴えたくても、データ重視のCEOやCFOが期待するような、数字による裏付けがない。その結果、変革は期待を下回る成果しか上げられないという悪循環が繰り返される。投資利益率(ROI)を確証するデータがないため、チェンジマネジメントは必要とするリソースをひきつけられず、結果は仕事に当たる「職人」の質次第となるのだ。

 職人が使用するツールを改善すれば、よりよい成果は上がるかもしれないが、そこから原因と結果を論証できるわけではない。チェンジマネジメントを「職人芸」から「科学」へと転換させることが、この問題を解決するカギとなる。


HBR.ORG原文Data Can Do for Change Management What It Did for Marketing, July 31, 2017

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マイケル L. タッシュマン(Michael L. Tushman)
ハーバード・ビジネス・スクールの経営学教授。イノベーションおよびリーダーシップ、変革に特化したボストンを本拠とするコンサルティング会社、チェンジ・ロジックの取締役も務める。チャールズ・オーライリーとの共著に、Lead and Disrupt(未訳)がある。ツイッター(@MichaelTushman)でも発信している。

アンナ・カーン(Anna Kahn)
EYピープル・アドバイザリー・サービシズのパートナー。

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アンディ・ビンズ(Andy Binns)
チェンジ・ロジック社のマネージング・プリンシパル(andrew.binns@change-logic.com)。