素人目線が新たなエコシステムの可能性を見いだす
――日本企業は欧米企業に比べてオープンイノベーションが不得意と言われますが、産官学連携の現場ではいかがですか。
地方創生、地域活性化のプロジェクトに招かれ、学生を連れていくことも多いのですが、彼らの価値は、まさに「よそ者、若者、ばか者」にあります。地方には固有のエコシステムがありましたが。孤立分断が進んだ結果、機能不全に陥っているケースが多く見られます。問題解決には、別のエコシステムと共鳴させ、新たなエコシステムへ変えていく必要があります。「素人の目線で新たなエコシステムの可能性を見つけることが、君たちの役割」と学生には常々話しています。
――素人目線が成果に結びついた事例はありますか。
北海道別海町の酪農就労支援のプロジェクトでは、いくつかの学生のプレゼンテーションが高い評価を受けました。現地では年間約20件の酪農家が廃業する一方で、新規就労は数件に留まるなど、深刻な酪農事業の縮小に悩んでいます。そこで20年前に研修牧場を設立し、道内外から就労希望者の受け入れを支援してきましたが、入口の条件として夫婦であることが大きな障壁となっていました。
そこに目をつけた学生が何を言い出したかというと、都会に住む子連れのシングルマザーを受け入れ、研修制度のハードルを引き下げ、酪農だけでなく、さまざまな周辺事業に参画できる仕組みをつくることで、地域経済を活性化し、税収も増やそうというものでした。成果はこれからですが、現地の担当者はえらく感心されて、「すぐにでもできそうだ」と話していました。
――学生のような素人目線を持った多様な人材を含む組織づくりがイノベーションのカギを握ると言えそうですね。
大きな組織がイノベーションを起こすのは難しい。そこで、ロッキード・マーチンの「スカンクワークス」のように、独立した小さな組織が、既存の価値観や圧力から外れたところで、自由闊達に活動を行うことも一つの方法です。青色発光ダイオードを開発した中村修二氏も当時(日亜化学工業)の社長に直談判して、資金を出してもらい、庇護者は社長一人、周囲は誰も評価しないなかで、延々と研究しました。中村氏のような突出した人材は、組織が排除しようとしますから、意思決定や資産配分を行うCxOがどれだけ守れるかは重要なポイントです。