学際的な現代的問題を解決するのは現場主義しかない
――結果が出ないにもかかわらず、突出した人材に才能を発揮できる場を与え続けることは、企業経営者にとって大きなチャレンジです。

GEなどは、それを系統的にやっています。大企業の新規事業の成功率は5%程度と言われます。20回に1回しか成功しないわけです。そこで、新規事業の提案を担当する人材を配置し、その会社のビジョンと自分自身のパッションが一致する範囲で、延々と20回以上、イノベーションを提案し続けています。日本で同様のことをやらせてくれる企業はほとんどありません。2、3回失敗したら、ポストを外され、不都合なことが起きたら「お前のせいだ」と追及される。これはある種の錯誤です。
――デジタル化が進展したこれからのビジネスは、「社会性」の視点が不可欠といわれます。ところが、現代的問題は、学際的な領域に存在し、分断化された専門教育では解決できない、と唱えています。解決策はありますか。
大学は専門性を高めるために大学院をつくり、より細かい特殊な領域を追求したがゆえに苦しんでいます。一般教育の3分野、すなわち自然科学、人文科学、社会科学が人間の知的領域の全体とすると、環境、平和、人口、ジェンダーといった現代的問題は、3分野のオーバーラップしたところに存在します。にもかかわらず、既存の細分化された専門知識で解決しようとするから、重要なポイントからどんどん外れてしまうのは当たり前です。
解決するにはどうしたらいいか。原点に立ち返り、問題そのものに取りかかるしかありません。地方に問題があるなら、地方に行く。組織が問題なら、組織に入り、その周辺を観察する。現場主義に徹するのです。このときに、現代的問題を最も敏感に察知しているのは、二十歳前後の若者です。彼らと一緒にもう一度ゼロから新しい学問を立ち上げるつもりで取り組んでいくというのが私の考えです。
企業も同様に、現代社会にうまく適用できないで苦しんでいるのだとすれば、最も適用できている若者と一緒に解決策を考えていけばいい。現代社会に対処する知恵とノウハウ持っているのは、企業のなかでは新入社員なのですから。
(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)