どんな企業にとっても、いまやグローバル化は他人事ではない。日本企業に就職したと思ったら、上司や同僚が外国人というケースは珍しいことではなくなった。では、そうした多国籍な環境に適応し、成功を収める人は、どのような特徴を備えているのだろうか。筆者らは、英語公用語化を進める楽天の研究を通じて、国、言語、文化を超えて成功するために必要な5つの行動指針を導き出した。
最近のマッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートによると、2030年には、グローバル労働力人口が35億人に達する見込みだ。しかし、それでも高技能の労働者は不足し、有能な人材を確保するための競争はいっそう激しくなるだろう。
我々は今後、母国文化の中で、特定の勤務地で働くことを想定するのではなく、文化をまたいで働くための新しいスキルや心構え、行動を習得しなければならない。キャリアや同僚、協業に対する考え方にも、さらなる柔軟性や順応性が求められる。
私は5年間にわたり、日本に拠点を置く大手Eコマース企業である楽天のグローバル労働力について研究した。これにより、新しいタイプのグローバル労働力を成功に導くものは何なのかが見えてきた。
2010年までの楽天は、多言語グローバル企業だった。東京本社の日本人従業員は日本語でコミュニケーションを交わし、米国の子会社で働く米国人従業員は英語で会話した。また、アジア、ヨーロッパ、南米の従業員は現地の言語も交えながらやり取りをしていた。
国境をまたぐコミュニケーションを取る際には、翻訳者を雇って対応していた。さらに、子会社の業務は各地域に任されがちで、それぞれ異なる企業文化や規範が存在していた。ところが、楽天は2010年、1万人あまりの従業員に英語を社内公用語とすると義務づけたのである。
CEOの三木谷浩史は、複数言語で業務を行っていると、既存か新規にかかわらず自社のグローバル事業にとって有益な情報が共有されにくいことに気づいた。世界のGDPにおける日本のGDPの縮小見込み(2006年の12%から2050年には3%に下落)を受け、楽天は海外の収益比率を向上させることも目指した。そのためにも、グローバルな人材プールも拡大したいと考えたのだ。
何より楽天は、世界一のインターネット・サービス企業になりたかった。英語の公用語化によって、楽天の従業員の働き方、外国との関わり方が刷新される。三木谷はそうにらんだのである。
だが、英語の公用語化は、言語の面でも文化の面でも、あらゆる難問を突きつけた。従業員のバックグラウンドや拠点によって、その課題はさまざまである。特に学ぶべきことが多かったグループが2つある。まず、日本人従業員は「カイゼン」「オモテナシ」といった自国の概念を心得ている半面、英語の上達に苦戦した。かたや米国人従業員は、英語は流暢だが、新しいルーティン業務や日本からの期待にとまどっていた。
一方、言語と文化の両面で新しい環境に適応しなければならなかった従業員、すなわち、自国にいながら外国企業で働く「二重駐在者(デュアル・エクスパッツ)」と私が呼ぶ人々は、英語が公用語化された楽天の職場環境に、最も容易に馴染むことができた。
ブラジル、フランス、ドイツ、インドネシア、台湾、タイなどの出身者は総じて、私が言うところの「グローバルワーク適応」の特性を示した。こうした適応力を伸ばすことは、多国籍企業で勤務したり、グローバルな仕事に携わったりする人々にとって、特に有益であり、マネジャーが従業員を育成する際にも役立つ。
この適応性につながるのは、次に挙げる5つの行動である。