日本企業からイノベーションが失われたと指摘される。イノベーションを生み出すのは、テクノロジーではなく、人である。だとするなら、人材育成、マネジメントにどんな課題があるのだろうか。人材マネジメントが専門の守島基博学習院大学教授に聞いた。

新しいアイデアには
「いいね!」ボタンを押す

 編集部(以下色文字):日本企業は組織の中の「出る杭」を伸ばせない。それがイノベーションを妨げているという指摘があります。

学習院大学大学院
経営学研究科教授
守島基博氏

1999年慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職。専門は人材マネジメント論・組織行動論・労使関係論。著書に『人材の複雑方程式』『人材マネジメント入門』など

守島 仮に「出る杭」を尖っている人材だとか、専門性が際立っている人、あるいは組織の常識にとらわれない人といったように定義するなら、そういう人たちが自由にものを言える組織風土をつくったり、言える能力をつけたりすることは確かに必要だと思います。

 ただ、企業としてのイノベーションにつなげるには、アイデアが出てくるだけでは不十分で、出てきた新しいアイデアに対して「いいね!」ボタンを押す意思決定者がいなきゃいけないし、いいねと言ったものにはリソースを投入して実現化するプロセスが必要になってくる。

 そういう意味では、出る杭は昔も今もいるし、海外に比べて日本には少ないとは必ずしも言えないのではないか。それよりも、いま申し上げたとおり、いいアイデアをサポートして実現化するプロセスがなくなってしまったことが、イノベーションが起きなくなった要因としてはむしろ大きいと思います。

 バブル崩壊後の日本企業は総じて萎縮してしまい、リスクを避けること、効率を高めることを優先してきました。その結果、新しいアイデアに耳を貸さなくなった、あるいは、そもそも必要だと思わなくなった。そういう風土が蔓延した結果、アイデアを実現化するプロセスが消滅してしまったのではないでしょうか。

 また、そういうプロセスがなくなると、みんな最初から諦めてしまって、敢えて斬新なアイデアを出そうとは思わなくなってしまいます。

目標管理の運用を間違うと
伸びる人材も伸びない

 バブル崩壊後には賃金カーブの上昇を抑えるために、多くの企業が成果主義型の人事制度を導入しましたが、それも関係していますか。

守島 成果での評価というよりは、むしろコスト管理や目標管理を含めて、企業全体として管理が強まり過ぎたことが大きいのではないでしょうか。

 確かに経営者から現場の社員に至るまで、短期での成果を求められる傾向が非常に強まりました。管理の強化と短期的成果の追求、この2つが大きな要因だと思います。

 例えば人材に関していえば、本来であればその人が以前に比べて成長した部分に光を当て、能力が向上したことを承認する、それが目標管理の目的の一つです。しかし実際には、従業員に短期的な目標を設定し、そこから逆算して何が不足しているのかというマイナス面にばかり注目するような運用がなされています。これでは、伸びるものも伸びないし、新しいことにチャレンジする意欲は湧きません。さらには、上司や組織へのエンゲージメントも下がる一方です。