では、企業がいま優先して取り組むべき課題は何でしょうか。
守島 いま人材マネジメントを変えないと、「日本では人材倒産が起こる」と私は言っています。
まず、背景として日本では労働力人口が減っています。そのうえ、さらに2つの問題を抱えています。
一つは、人が育っていないこと。よく言われることですが、グローバル化をやります、イノベーションを起こしますといっても、その戦略を担う中核的な人材が育っていません。
もう一つは、働く人のモチベーションが大きく下がっていることです。従業員のエンゲージメント調査を見ると、諸外国と比較して日本はかなり低い。つまり、仕事への関与の度合いやモチベーションが低いということです。そんな状態の従業員が、能力をフルに発揮できるはずがない。中核人材が育っていない、いたとしてもモチベーションが低くて十分な能力を発揮していない。これは、人手不足よりもっと根深い「人材不足」です。
天然資源に乏しく、人で勝つしかない日本がこのような状況では、国際競争に敗れ人材倒産してしまう。私はそれを懸念しています。
数字ばかりではなく
もっと人を見よ
人材倒産を避けるにはどうすればいいのでしょうか。
守島 ごく簡単に言ってしまえば、人が育つ環境をつくる、つまりチャレンジさせることです。いきなり大きなチャレンジをさせる必要はありません。自分がいまできることより、少しレベルが高いことに挑戦させてみる。
たとえ小さなことでも、できなかったことができるようになると人は成長や幸福を実感します。そして、夢を持てるようになる。その環境を整えるのが、教育です。
人材マネジメントというと、制度や仕組みのことを想起する人が多いのですが、要は人をどう育てるかということ。さらに、どうモチベーションを高め、組織へのエンゲージメントを強めるか。極端に言えば、それだけのことです。
そのために、「経営者は数字だけではなく、もっと人を見よ」と私は言いたいですね。人を見ることができるのは、人だけなのです。
ポテンシャルがある人にはチャンスを与え、教育機会を与える。これはある意味で賭けです。人事とは投資なのです。投資するからには、その前に人をじっくり吟味しなくてはいけない。
短期的な目標達成度合いやアウトプットばかり見ていて、人を見ていない会社は、人材倒産のリスクが高まるばかりだと思います。