石川 コスト削減というと、日本企業はすぐ単価を下げることに頑張ってしまいます。ですが、コストは「単価×数量」で決まりますから、数量の精査も重要。それには、誰が、何に、いくら使ったのかを完全に可視化し、具体的なコスト削減の機会を特定することが必要になります。
ある企業の場合、営業車1台に対し、営業所と得意先、自宅近くの3箇所で駐車場を借りていました。会社はそれを把握していなかったのですが、営業ルートを見直すなどすれば、コインパーキングを利用したほうがコストは安くなるはずです。このように習慣化してしまって誰も気に留めなくなったことも含めて再評価する。ゼロベースで見直すZBBだからこそ、こうした改善ができるわけです。
なくてもよかったコストだから
業務に支障はない
――先ほどお話に出ましたが、組織全体に根づかせるためにはカルチャーの変革が求められます。
谷村 経営者や役員は、1円でもコストを下げて、それを次の投資に回したいという思いが強いため、ZBBに対する取り組みに理解があります。ですが、日本企業の場合、トップダウンでがらりと変わる米国企業のようにはなかなかいかないでしょう。カルチャーとして根づくには少し時間がかかるかもしれません。ただ、前述したコストのオーナー制度を採り入れ、どれだけコスト削減したかを評価するKPI(重要業績評価指標)も設定しているため、自ずと社員の考え方も変わってくると思います。
石川 コスト削減というと、ネガティブに捉えられがちですが、ZBBによって生み出されるキャッシュは100%利益です。それが新たな投資に回され、業績が上がり、報酬にも反映されます。こうした成果を全社員が実感すれば、意識も変わってくるのではないでしょうか。
谷村 日本企業は製造原価などに対するコスト意識は極めて高いのですが、間接材、経費の管理が緩くなっているケースが多く見受けられます。私たちはZBBで削減するコストを「シンプルコスト」と呼んでいますが、「どっちでもよかった」、つまり、なくてもよかったコストなんですね。ですから、企業の競争力や現場の業務は変わらないのです。このため、ZBBを実行して仕事がやりづらくなったという声はまったく聞かれません。