●集中力の強化

 我々がゴールドスタンダードに適合すると判断した研究の結果によれば、日常的な習慣としてマインドフルネスを実践する人たちには、上の空になったり、注意散漫になったりする傾向があまり見られない。このタイプの人は、マルチタスクをこなしているときでさえ、集中力が相対的に高かった。そのビジネス効果は歴然であり、生産性の向上と概念ギャップの改善が明らかに見られる。

 ある幹部は、集中力不足のリスクについてこう語った。「会議中に上の空になると、たったいま、どんなビジネス機会を逃してしまったのかと心配になる」

 上記のメリットを得るには、10分間のマインドフルネス実践を1日に3回試してみることだ。その間はすべてをいったん脇に置き、自分の呼吸に全神経を集中させる。息遣いをコントロールしようとしてはいけない。ただ深く吸って、長く吐いていることを感じとればいい。呼吸以外のものに意識が向いたことに気づいたら、とにかく意識を呼吸に戻し、次の呼吸からやり直す。 

 気がそれたからといって、自分自身を責めてはいけない。誰しもそういうことはあるものだ。マインドフルネスを実践し始めると、集中しようとしていることからいかに頻繁に意識がそれるものか、いやというほど気づくようになる。だが、意識をふたたび呼吸に集中させようとする行為こそが、集中を司る脳の神経回路の強化につながるようだ。

 この変化を促すのは何か。前頭前皮質は脳の最高中枢であり、注意力を司る。扁桃体(怒りや不安といった、心をかき乱す感情を引き起こす部位)が活性化すると、この前頭前野に停止シグナルが送られる。そのため、不安や怒りを感じているときは、考えがまとまらなくなるのだ。

 扁桃体を落ち着かせることができれば、前頭前野がより効果的に活動できるようになり、その結果、集中力が向上する。そして次のセクションでわかるように、まさに扁桃体を落ち着かせる役割を果たすのがマインドフルネスなのだ。

●ストレスのある状況で比較的平静を維持

 瞑想を実践する人たちの扁桃体は攻撃性が比較的弱いことが、研究によって明らかになっている。つまり、彼らの脳はある種のインプットを脅威と解釈する可能性が低く、逃走や闘争、凍結といった防衛反応を即座に示す傾向が比較的弱いのだ。

 これが職場でどのように展開するかを示す例として、上級幹部チームのリーダーを想像してみよう。

 前述の呼吸法と似た、マインドフルネスのグループセッションを毎朝行うようになって以来、チーム内の関係は良好になり、些細な対立にそれほど強く反応しなくなった。そのため、チームメンバーたちは情報やアイデアを以前よりも円滑に共有できるようになる。それぞれの異なる視点を落ち着いて討論できるため、最終的にはより有効な戦略的決定を下せる。他のグループに関する調査でも、瞑想を実践する人は概して、ストレスの多い出来事から比較的早く回復することが明らかになっている。

●記憶力の向上

 マインドフルネスを実践する人は、作業記憶(ワーキングメモリー)、つまり進行中の思考プロセスを保持する短期記憶にも優れている。たとえば、マインドフルネスを実践すると、大学生の大学院入学試験の点数が平均16%上がった

 これを職場に当てはめれば、複合思考能力の強化につながる。この能力は戦略的な仕事や問題解決、さらには他者との張り詰めたやり取りに必要な、リーダーの資質だ。また、扁桃体が興奮しにくいということは、リーダーが平静を維持できるということであり、それはすなわち明瞭さを保つことを意味する。

●よいコーポレート・シチズンシップ

 親切な態度を意識して育む瞑想は、マインドフルネス実践の一部であることが多い。このアプローチは、思いやりを司る脳の神経回路の活性化、つまり寛容さの増大につながり、困っている人を助ける傾向が強くなることが実証されている。これはまさに、よいコーポレート・シチズンの資質であり、また「あの人の部下になりたい」と思われるリーダーの資質だ。

 実際、多くのスポーツチームが調和の取れたチームワークの強化策として、いまやマインドフルネスをトレーニングに組み込んでいる。瞑想の指導者、ジョン・カバット・ジンは、ハーバード大学のボート競技チームに、またオリンピックのボート競技代表チームにも、かつてマインドフルネス瞑想を指導していた。この競技では、チームの協調と助け合いが最重要であるため、選手たちは彼の指導の下、まず手をつないで円陣を組み、自分たちの息遣いに集中した。その後、黙ってシェル艇に乗り込み、スタートするのが常だった。

 ポイントをまとめるとこうだ。マインドフルネスについて聞くことすべてを鵜呑みにすべきではないが、瞑想の習慣には確かにメリットがある。実際、研究によれば、生涯にわたってより多くの時間を瞑想に充てるほど、4つの面でよりよい結果が得られることも明らかになっている。スポーツジムでの定期的なトレーニングが体を健康にするのとまったく同じように、ある種の精神的健康を向上させる手段として、マインドフルネスをとらえるといいだろう。


HBR.ORG原文 Here’s What Mindfulness Is (and Isn’t) Good For, September 28, 2017.

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ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)
ラトガーズ大学の「組織における心の知能 研究コンソーシアム」共同ディレクター。リチャード・ボヤツィスとの共著に『EQリーダーシップ』、ダライ・ラマとの共著に『なぜ人は破壊的な感情を持つのか』がある。また著書にThe Brain and Emotional Intelligence(未訳)、A Force For Good(未訳)がある。近著はAltered Traits(未訳)。