ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第65回はマイケル・マンキンスとエリック・ガートンによる『TIME TALENT ENERGY』を紹介する。

資本があり余る時代の
競争力の源泉は何か

 この文章を読みながら、心の中で「そうそう」と頷いてしまう方は多いのではないか。

「現場の社員や中間管理職は、会社の手続きや規則、延々と終わらない会議、おびただしい数のメールに辟易している。
 おまけに、組織の階層が多すぎて部門長には自分たちの声が直接届かないし、顧客の顔も見えないなど、不満が渦巻いている。そして決まって出てくるセリフが『これじゃ仕事にならない』」

『TIME TALENT ENERGY』第1章より

 何を決めるのかもわからない不毛な会議に参加し、情報共有という名目で送られてくるメールの確認に時間を奪われ、日が暮れ始めた頃、ようやく価値を生む仕事に取り掛かる。いざ気持ちを切り替えて仕事に向き合おうにも、信頼できる仲間は近くにおらず、他部署の同僚と協働する機会を得るには無駄な手続きを要求される。そんな日々を過ごすうちに、仕事への意欲は失われ、巨大組織の中に埋没してしていく。特に組織が完成されている大企業を中心に、そんな光景はよく見られそうである。

 本書の著者である、ベイン・アンド・カンパニーのマイケル・マンキンスとエリック・ガートンによると、かつては資本が稀少であったがゆえに価値を持っていたが、もはやそんな時代ではないという。たしかに、いまや身近にいる一部の資本家に依存する必要はなく、資本の獲得手段は多様化し、かつグローバル化している。現代の競争力は資本から生まれるのではない、という彼らの主張には納得感がある(「資本があり余る時代の競争優位」〔DHBR2017年7月号〕でも、マンキンスらは同様の論を唱えている)。

 では、何が企業の競争優位につながるのだろうか。筆者らはそれを「時間」「人材」「意欲」の3つだと説く。誰にも等しく限られる24時間を有効に使い、優秀な人材を惹きつけ、それを適切に配置し、彼らのやる気を最大限に引き出す組織とマネジメントが不可欠だという。本書では、「傑出した企業」とそうでない企業を比較したうえで、3つそれぞれについて詳細な理由を述べ、具体的な解決策までが示されている。

 たとえば「人材」に関する違いとして、その配置に言及している点は日本企業にも非常に参考になる。停滞する大企業には、ディファレンスメーカー(違いを生み出す人材)を部門ごとに平等に配置する傾向が強い。しかし、優れた成長性を誇る企業は異なり、そうしたAクラス人材を「オールスターチーム」として一つに集め、組織に変革をもたらす業務に集中して当たらせるという。どちらの企業もディファレンスメーカーの割合はほぼ変わらない。だが、その配置を工夫することで、後者は圧倒的な成果を上げられているのである。