イノベーションの取り組みを、販売やマーケティングと同じように「パイプライン管理」すれば、どうなるか。350万人を対象に、アイデアの創出から実行までをSNS型ソフトウェアで管理した結果を報告する。


 販売とマーケティングはかつて、感情に大きく左右される分野だった。だが人々はあるとき、それらが定義可能なパイプライン(一連の秩序立ったプロセス)に基づくものであると気づき、そのパイプラインの管理にテクノロジーを適用した。現在では、業績ダッシュボードを導入して販売とマーケティングを管理したり、成績を高めるために設定を微調整したりできる。

 この発想を、イノベーションに応用したらどうなるだろう。販売とマーケティングと同様、イノベーションも結局のところパイプラインである。片側から、素のままのコンセプトや概念を投入すると、反対側からは、ビジネスを前進させうる実行可能なアイデアが生み出されるのだ。

 では、適切なテクノロジーの活用によって、これを販売パイプラインと同じように管理することはできるだろうか。我々の研究によれば、それは可能である。

 本稿筆者の1人であるディランは、Spigit(スピギット)というアイデア管理システムを使った、上場企業154社の従業員350万人以上に関する、5年分のデータを分析した。これら大勢の人々の間で、このシステムはフェイスブックに似たような機能を果たす。アイデアの投稿、投票の獲得、フィードバックの送信や返信を行うことで、それらのアイデアを会社に貢献するイノベーションへと発展させることができる。

 イノベーションチームは、あらゆるアイデアをこのソフトウェアで追跡・処理し、それらを自社で実行に移すかどうかを検討する。スピギットを使う目的は企業によってさまざまで、プロセスイノベーション、新製品の開発、効率化、コスト削減などがある。

 イノベーションをこうしたシステムに一度組み込んでしまえば、すべてが追跡可能だ。社内で進行中のイノベーション施策の数、アイデアを提案している従業員の人数、提案されたアイデアの数を知ることができる。投票やコメントの投稿といった方法で、関与している人の数も把握できる。取り組みの最終段階に達したアイデアの数もわかる。この段階で経営陣が、どのアイデアをさらに追求するか決めるのだ。

 我々は線形回帰を用い、システムで測定可能なすべての指標について、社内でのシステム稼働時のデータを3ヵ月スパンで分析した。

 全データの分析で明らかになったのは、イノベーションはまさに、科学であるということだ。そして驚くべきことに、イノベーションの取り組みを成功に導く変数は、企業が追い求めるイノベーションが「破壊的か、漸進的か」ではなかった。また、対象が「プロセスか、製品か」でもなく、その会社が「どの産業に属しているか」も関係ない。ほとんどの場合、「会社規模の大小」すらも関係がなかった。

 我々がすべての分析対象企業を通して特定した重要変数は、「概念化率(ideation rate)」である。これは、「経営陣に承認されたアイデアの数」を、「システムに参加しているアクティブユーザーの総数」で割って算出したものだ。概念化率の高さは、企業の成長や純利益と相関性がある。おそらくこれは、イノベーション文化を持った企業は、よりよいアイデアを生み出すだけでなく、そのアイデアを実行できるように組織化・管理されているからだろう。

 概念化に影響を与えうる多くの変数を精査した後、我々は概念化率を高める4つの変数を特定した。それらは、予想に反するものだった。