『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』誌に発表されたある研究では、適切なレベルの環境ノイズは、創造的思考を引き出すことがわかった。イリノイ大学アーバナシャンペーン校のラビ・メータをはじめとする研究チームは、さまざまなレベルのノイズの中で創造的思考のテストを受けてもらう実験を行なった。
参加者は無作為に4つのグループに分けられ、全員が遠隔連想テスト(Remote Associates Test, RAT: 創造的思考を判断するためによく用いられる測定方法で、一見無関係に見える複数の言葉の関係を答えさせる)を受けた。その際、グループごとに4つの異なるレベルの背景ノイズを聞かせた。完全な無音、50デシベル、70デシベル、そして85デシベルである。
各グループ間の成績の差は、ほとんどが統計的に有意ではなかった。ただし、70デシベル(コーヒーショップでの周囲の話し声に相当するノイズ)のグループは、他のグループより成績が突出してよかったのである。
ノイズによる影響が小さいことは、創造的思考が、完全な無音でも85デシベルの背景ノイズでもたいして変わらないことも示しているのかもしれない。85デシベルというと、大きなゴミ処理の音や、静かなオートバイのエンジン音に相当するレベルだ。ゴミ処理やオートバイのそばで仕事をしたいという人はいないだろうから、これは驚くべき結果だと、私は思う。
一方で、70デシベル・グループの成績のよさが統計的に有意だったことから、この研究がもう1つ示しているのは、適度なレベルの背景ノイズ(うるさすぎず、無音でもない)が、創造的思考能力を高める可能性があるということだ。適度な背景ノイズは通常の思考パターンを壊し、それゆえ想像力が自由にはばたく余地を与える。それでいて、集中することもできる。この種の「気が散った集中」は、創造的な仕事に取り組むのに最適な状態のようだ。
メータの研究チームは、次のように記している。「比較的ノイズの多い環境の中に入ることで、脳は抽象的思考を始め、そこから創造的な発想が生まれるのかもしれない」
また別の研究では前頭葉脳波記録装置(EEG)を使って、さまざまなノイズ環境で、創造性テストを受ける被験者の脳波を調べた。すると、ノイズの種類によって創造性テストの結果に統計的に有意な差があること、また創造性テストの結果とある種の脳波には関連があることがわかった。メータのチームの研究と同様に、一定レベルのホワイトノイズは、創造的な仕事に効く理想のBGMだと証明されたのである。
ではなぜ、これほど多くの人がオープンオフィスを嫌っているのだろうか。同僚の静かな話し声や空調の鈍い音は、集中に役立つはずではないか。
問題は、オフィス内では周囲の会話につい引き込まれてしまったり、集中しようとしても何かの邪魔が入ってしまったりすることかもしれない。事実、前述の脳波記録装置を使った実験では、対面での交流や会話といった要因が、創造的プロセスに悪影響を与えることがわかっている。対照的に、コワーキング・スペースやコーヒーショップには、一定レベルの環境ノイズはあるが、邪魔な割り込みはない。
まとめると、仕事に集中できる理想の場所とは、ノイズのない空間ではなく、邪魔の入らない空間だということだ。どれほど騒音があろうと、1人になれるスペースを見つけられれば、それが重要な仕事を仕上げるための最善の策かもしれない。
HBR.ORG原文 Why You Can Focus in a Coffee Shop but Not in Your Open Office, October 18, 2017.
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デイビッド・バーカス (David Burkus)
オーラル・ロバーツ大学准教授。経営学を担当。専門はリーダーシップとイノベーション。既刊に『どうしてあの人はクリエイティブなのか?』がある。最新作は2018年5月刊行予定のFriend of a Friend...。詳細はウェブサイトを参照。