2. 活かされていない強みを発揮させる

 何でも専門化・分業化される世界では、ルネッサンスマン(万能型の知識人)の時代は遠い昔となった。だが、まれにそのような人物が見られる。マリー・キュリーは、物理学におけるパイオニア的研究でノーベル賞を受賞した後、化学賞も受賞した。リチャード・ファインマンは、量子電磁力学を発展させ、マヤ文明の文字を解読し、暇なときには金庫破りをした。

 これほどの偉業を成し遂げる人は数少ないが、有能な人の多くは多才である。フェイスブックのダイバーシティ部門のヘッドは、以前は弁護士でジャーナリストでもあり、トーク番組の司会者もしていた。コミュニケーション部門のリーダーの1人は、かつてロックバンドのボーカルだった。プロダクト・マネジャーの1人は元教師だ。悲しむべきことに、企業がつくる職務明細書は範囲が狭すぎて、従業員の幅広いスキルを活かせていない。

 賢いマネジャーは、部下に強みを活かす機会を提供する。その実践法の一案として、インスタグラムで最近までソフトウェア・エンジニアとして働いていたチェイスの例を考えてみよう。

 約6ヵ月前、チェイスが所属していたチームは、新たなツールとフォーマットをリリースするための急速なプロダクト・イテレーション(反復)を行っていた。その際、チェイスはチームが素晴らしい成果を上げるのに貢献した。だが、彼はプロジェクトが終わる頃には、大規模なコーディングと職能上の枠を超えた仕事で疲弊してしまっていた。そこで、他の方法で貢献できないかと考え始める。

 彼は上司のルーと話しているうちに気づいた。自分には技術面の豊かな知識・経験があるものの、本当に秀でているのは、試作品を構築して、コンセプトを素早く実証しイテレーションを行うことだ、と。だが、インスタグラムには、これらのスキルを一緒に活かせる役割がなかった。また、チェイスには従来型の設計の職歴がない。

 ルーは設計チームを説得し、ハッカマンス(1ヵ月間、特定のプロジェクトに取り組む別のチームを手伝ってよいとする制度)の間、チェイスを受け入れてもらい、新たな役割を試させることにした。この期間中、チェイスはプロダクト設計の主導者であるライアンと手を組み、画像取得と共有の新たな方法を試す試作品をただちにいくつも構築した。

 この成功によって、彼が自分の強みを活かせる新たな役割に就くことができただけでなく、同じようなスキルと関心を持つ協働者の幅広いチームを築く下地も生まれた。ルーは言う。「この役割に移行したことで、チェイスは仕事がやりやすくなり、インスタグラムにも有益でした。欠けていたものはただ、これを実現するための後押しでした」

 従業員に強みを活かしてもらう方法は、新たな役割をつくり出すことだけではない。あらゆるものがITやソーシャルメディアでつながり合うこの世界では、仕事の大部分は、知識を探し、共有することで占められている。いくつかの推定によれば、知識労働者が過ごす時間の4分の1以上は、情報を探すことに使われているという。

 彼らがどこを頼ればよいのかを知るうえで、上司が果たせる役割は大きい。マネジャーは、誰が何を知っているかをわかっていれば、点と点を結ぶことができる。さらには、検索可能な専門家のデータベースを構築することもできる。目標は、従業員の強みを社内で公に閲覧できるようして、誰に接触したらよいかがわかるようにすることだ。