1. 仕事を楽しめるように設計する
多くの人には、叶えられない天職(unanswered callings)がある。つまり、心からの情熱を持って打ち込みたかったが、いまのキャリアではそれができない仕事だ。
足りなかったのが才能であれチャンスであれ、それを職業にする手立てであれ、別のキャリアに就いたことで、その情熱が消え去りはしない。キャリアにおける「逃がした魚」のようにつきまとう。そして、人は目覚めている時間の大部分を仕事で過ごすため、その叶わぬ情熱を趣味として追い求める時間は、必ずしもない。
そこで彼らは、その情熱をいまの仕事に持ち込む方法を探す。我々の知人で、パイロットになる夢を逃したある弁護士は、航空関連の案件を追求している。また、音楽家になるのを諦めたある教師は、教室にギターを持ち込んでいる。
だが、組織では往々にして、従業員が自分の仕事を再設計するにはサポートが必要だ。
やりがいと意義のある仕事を設計するうえで、上司は大きな役割を果たしうる。これに最も優れたマネジャーは、部下が楽しみを見出せる仕事に取り組めるよう後押しし、そのためには、部下を秀でている役割からあえて異動させる場合さえある。
数年前、フェイスブックのディレクターの1人であるシンシアは、人事ビジネスパートナーズ部門の大規模なチームを率いていた。
彼女は、自分が最も楽しめる仕事、つまりクライアントとの問題解決に時間を費やしていないことを知っていた。大規模なチームの管理という、より大きな責任を担うことになったのは、フェイスブックの一部の主要リーダーたちから、信頼できるアドバイザーとして認められたからだ。だが彼女は、ひとたびその仕事に就くと、自分に活力を与えていた職務があまりできないと気づいた。
シンシアは上司のサポートの下、長期的な視点を持ってチームに新人を採用した。やがては、その人物にチームの運営を任せ、自分は非管理職者に戻るためである。つまり、シンシアは単に直属の部下を採用したのではない。将来の上司を雇い入れたのだ。
その新たな人材が力をつけ、みずからの仕事における組織・人のマネジメントの要素を楽しんでいることが明らかになった段階で、彼女とシンシアは役割を交替した。いまシンシアは生き生きと働き、非常に大事にしているクライアントの問題解決にいそしんでおり、後任者がチームを率いている。シンシアの上司にとって、彼女をフェイスブックに留めることは、特定の役割に据え置くことよりも、はるかに重要であったのだ。
マネジャーは、部下がどんな仕事なら楽しめるのかを十分にわかっていないことが、あまりにも多い。それは退職者面接――なぜ有能な人材が辞めるのか、彼らを引き留めるにはどうしていればよかったかを知るために、どこの人事部でも行われている一般的な慣行――の中で吐露される。だが、どうして彼らが辞めようとするまで待っているのだろうか。
筆者の1人アダム・グラントは、さまざまな業界の企業と協働し、新入社員面接を企画している。入社後の最初の週に、マネジャーは新入社員と膝を交えて質問する。これまで手掛けたプロジェクトの中でどれが気に入っているか、仕事で最も活力が湧いてきたのはどんなときか、完全に没頭してフロー状態になったのはどんなときか、仕事以外で何に情熱を持っているか、などだ。これらの知識を基にマネジャーは、最初から魅力のある役割を設計することができる。