戦略はなぜ、実行段階で失敗するのか。『ヤバい経営学』の著者が、その要因と対策をわかりやすく示す。選択肢のあり方と伝え方、実験と選択の後押し、行動変革を促す姿勢など、経営陣にとって基本原則となるものだ。
戦略の多くは実行プロセスで頓挫する。その理由は、企業が実行に値するものを持っていないからだ。
戦略コンサルタントが介入して助言し、パワーポイントのプレゼンテーションや分厚いレポートに新たな戦略をまとめる。対話集会が開かれ、社員は行動を変えるように促される。バランス・スコアカードが再構築され、新戦略に沿ったプロジェクトを支援する予算が確保される。
ところが、何も起こらない。
行動が伴わない主な理由の1つは、たいていの場合「新戦略」がまったく戦略になっていないからだ。真の戦略とは、会社が何をして何をしないのかを規定する、一連の明確な選択肢を含むものである。勤勉な社員の必死の努力にもかかわらず、多くの戦略が実行段階でつまずくのは、明確な選択肢を示していないからなのだ。
戦略と呼ばれるものの大半は、実は目標になっている。「事業展開する市場すべてで1位か2位になりたい」というのは、その一例だ。これでは何をすべきか伝わらない。伝えているのは、どんな結果にしたいか、ということだけだ。それを実現するための戦略が、さらに必要である。
また、会社の優先事項や選択肢がいくつか示されている戦略もあるが、それらを並べて見てみると一貫した戦略になっていない、というケースがある。たとえば、「業務効率を向上させたい。欧州、中東、アフリカ市場をターゲットにする。〇〇事業は売却する」などだ。いずれも素晴らしい決断であり、優先事項なのかもしれないが、組み合わせても戦略にはならない。
ここで格好の事例を紹介しよう。約15年前、英国を代表する玩具会社のホーンビー・レイルウェイズ(鉄道模型と、スロットカーのブランド「スケーレックストリック」の製造会社)が倒産の危機に直面した。新CEOフランク・マーティンの下、同社は方針を変更して、コレクターと愛好家にターゲットを絞ることにした。
マーティンが目指した新戦略は次の3つである。(1)(玩具ではなく)完璧な縮尺模型をつくる。(2)(子どもではなく)大人のコレクターをターゲットにする。(3)(大人に子ども時代を思い出させるため)郷愁に訴えかける。
この方針転換は大成功し、同社の株価をわずか5年で35ポンドから250ポンドへと押し上げた。
成功した理由は、わずか3つの明確な選択肢を示し、それらが互いに整合して明確な戦略方針になっているからだ(残念ながらホーンビーは近年、これらの選択肢を捨てたことで悲惨な結果を招いた。相次ぐ業績の下方修正を余儀なくされ、マーティンは早期退任を迫られた)。明確な戦略方針がなければ、いかなる実行プロセスも失敗する運命にあるのだ。