人事屋の言うことには耳を貸さない
ホラクラシー型の組織が有する特色の3点目は、Whyに基づいて事業を創造し、顧客の生活、ひいては世のなか全体をよくすることに一意専心していることである。特に日本においては、人事屋的な人々が現在でも旧来のルールに依拠した人材論、人事論を堂々と振りかざしていることには大きな危惧を感じざるを得ない。本来、顧客や世のなかをよい方向に変革することは、真に自由闊達な発想で楽しく愉快にやるべきものであり、こうしたことに棹を指すような古臭い「べき論」は無視する気概を持たねばならない。百歩譲って、世に出回っている人事論を参照する場合には、少なくともデジタル時代のゲームのルールに対する理解、洞察の努力の跡が見えるかどうかをチェックすることが必須であろう。
デジタル時代に出現してきた組織、そのなかで主体的に活動するためのWhyの重要性、7つのリーダーシップ特性、自由な発想の必要性について議論してきた。重要なことは、これらは組織論・人事論ではなく事業創造の思考様式や行動様式を示していることであり、これらの様式こそがデジタル時代のリーダーシップと言えるだろう。すなわち、現在の組織の下でもやろうと思えばホラクラシー型の企業が持つ優れた部分を実現することは可能である。
いきなり会社全体をホラクラシー型に変革する必要はない。現在の組織の枠組みのなかであっても、たとえば自分が属する部・課のWhyを真摯に考えて、各人が担うべきリーダー特性を明らかにし、事業創造を自由な発想で考えて、行動する。こうした改革がいくつか成功し始めたら、しめたものである。フランスの哲学者アランの「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。」という言葉の素晴らしさをいま一度、噛みしめたい。
本稿は、アクセンチュア社内における半年にわたる自主的な勉強会での議論をまとめ上げたものである。古川政志(オペレーションズ本部)、濵﨑豊(金融サービス本部)、姫野友哉(製造・流通本部)、五十川くりえ(戦略コンサルティング本部)、加勢博康(素材・エネルギー本部)、川越隆紀(製造・流通本部)、込山努(戦略コンサルティング本部)、松井健一(デジタルコンサルティング本部)、松下亮介(戦略コンサルティング本部)、三上慎一(デジタルコンサルティング本部)、ピンパレ・ニランジャン・スハス(テクノロジーコンサルティング本部)、齊藤安希子(公共サービス・医療健康本部)、新野徹(テクノロジーコンサルティング本部)、竹林晃彦(テクノロジーコンサルティング本部)、山田滋彦(製造・流通本部)、牧岡宏(戦略コンサルティング本部)との勉強会での議論をまとめていく段階においては自然発生的にホラクラシー型のチームワークが発生したことを最後に述べておきたい。
