ビジネスでは、事業規模やその人の立場を問わず、事前に経営戦略や事業戦略、プロジェクト戦略などを立て、目標達成に向かって邁進していきます。しかし、戦略は、それがどんなに的確で、実際に成果が出たとしても、市場環境の変化などの要因により、変更・転換すべき時があります。最新号の4月号では、「その戦略は有効か─転換点を見極める」というテーマで特集を組みました。
数多の失敗を乗り越えてきた
経験にもとづく戦略思考
まずは、斬新な企画で注目を集めるインターネットテレビ局「Abema(アベマ)TV」を展開するサイバーエージェントの藤田晋社長のインタビューです。
創業20年弱で事業の大転換を3度実行してきた経験から、「経営に余裕があるうちに次の事業を仕込む」「期待値が高い事業を選び、賭け、社員を納得させる」「失敗した際の損切りの判断が重要」「危機感を失うことが最大のリスク」など、特集テーマの“解”の実例と言える考え方が次々と出てきます。
第2論考が、特集の肝です。かつて有効だった戦略に固執して過剰投資してしまう現象を「エスカレーション・オブ・コミットメント」と呼びます。この論文では、これが業界のトップ企業が消滅する主因であるとして、その現象の構造を明らかにします。その上で、その罠に陥る可能性を減らすための方法を、心理学や社会学などの学問的研究に依拠した組織ルールとして紹介しています。
エスカレーション・オブ・コミットメントを、より経営の現実や現場に引き寄せて論じているのが第3論考です。戦略は、維持よりも転換のほうが困難であるとして、成功体験やそこから派生する思考、組織文化等々が、変化を拒む「組織の慣性」を構築すると論じます。筆者の慶應義塾大学大学院の清水勝彦教授は実証研究をもとに、外部からの刺激を受けやすい組織環境を準備することが必要だと説き、戦略的柔軟性を高める6つの施策を提示します。
二つの論考のベースにあるのが、いかんともしがたい人間の“性(さが)”です。ですから、人や組織は活動にバイアスがかかるということを前提に、それを回避するための事前の意思決定ルールや仕組みの設定が必要だと考えます。
それを第4論考では、数値指標として示します。米国の大手小売企業37社の5年間の業績を分析して、小売業界において、成長期から成熟期への移行を当事者に自覚させる指標は、投下資本利益率、店舗当たり収益、新店舗当たり推定収益増加額の3つであるとします。この指標の導き方や裏付けとなる例証、さらに低成長でも利益率を高める方法は説得力があります。