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成功でも失敗でも
戦略は簡単に捨てられない
選択と集中。バブル崩壊以来、この言葉をどれだけ聞いたことだろう。
戦略の本質とは、限られた資源をメリハリをつけて配分することにより、差別化を図ることである。にもかかわらず、いまだに「捨てられない」「変えられない」という声が言いわけや非難とともに聞こえてくる。捨てることが難しいのは(過去の)成功だけではない。現実には失敗ですら、あるいは失敗だからこそ、捨てる(変える)ことが難しい状況も多い。この背景には組織の慣性がある。
失敗したにもかかわらず資源を投入し続け、傷口をさらに広げる現象は「エスカレーション・オブ・コミットメント」(escalation of commitment)と呼ばれる。それには後述するような心理的(例:サンクコスト・バイアス)、組織的(例:社内政治)、社会的(例:リーダーは逆境に立ち向かうべき)な要因が挙げられるが、「成功の要諦は、成功するまで続けることにある」という松下幸之助の有名な言葉が象徴するように、その本質的な問題は、どんな赤字案件でも「間違いなく失敗」とは言い切れない不確実性(uncertainty)にある。
たとえば、キヤノンが成功を収めた複写機やプリンターなどの開発には、開発責任者が3人代わるといわれる20年近くの期間を要した。酒巻久キヤノン電子社長は、「初代は『あんなもの始めやがって』とぼろくそに貶され、二代目は『できるできると言って、ちっともできやしない』と嘘つき呼ばわれされ、三代目でようやく時代の風が吹いてきて、花が咲く[注1]」と語っている。
このように、ある立場から見れば「浪費」であっても、別の立場から見れば「投資」であることは少なくない。一方、たとえばリストラを考えると、負の遺産だけでなく、将来の可能性までを赤字と一くくりで捨ててしまうことはなかっただろうか。同時に、こうした可能性が残されていることは損切りできない言いわけにもなる。




