企業の基幹システムは
ビジネスのスピードに追いつけない

村上隆文
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部
テクノロジー戦略グループ日本統括
マネジング・ディレクター

早稲田大学大学院卒業後、2002年アクセンチュア入社。主に金融機関向けにIT・テクノロジー戦略を担当。15年以上に渡り、金融業界におけるIT戦略、ITトランスフォメーション、PMI等のプロジェクトに従事。テクノロジー戦略、イノベーション戦略、IT投資戦略、ビジネス・ITトランスフォメーション、大規模システム導入等に多くの知見を持つ。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」(フィンテック研究会)メンバー。

――デジタルビジネスではスピードがより重要ということですね。

田中 そうです。にもかかわらず、大企業の基幹システムのライフサイクル(使用年数)は短期化するどころか長期化しており、逆行しているように見えます。

 それは、成長期にスケールメリット追求で巨大化・硬直化してきたシステムを、簡単にリプレイスすることが困難になっていることが一因と推察されます。

村上 ITは設備投資の一種であるため、例えば基幹システムや基盤であれば10年、アーキテクチャと呼ばれるより根本的なシステム構成の考え方に至ってはさらに長い期間で考えることを前提とするべきです。そのうえで重要なことは、ITライフサイクルが引き続き長期である一方で、事業ライフサイクルはますます短期化し、両者のライフサイクルギャップが拡大していっている事実に目を向けることです。

 すなわち、新たらしいビジネスが順次産まれるなかで、10年から20年は同じビジネスインフラを活用して戦う必要がある。したがって、IT投資を行う際に、未来に向けた柔軟性を担保できるかが、中長期的な企業競争力に直結するのです。

ギャップを解消する
3つのアプローチ法とは

――では、このギャップを解消するにはどのようなアプローチが必要ですか。

田中 デジタルビジネスが主流になってきていることを考えると、ビジネスニーズが顕在化してからその都度ITシステムを構築する、つまり泥縄では遅い。設計段階で、ビジネスにどういう選択肢があり得るのかを想定し、先行的にIT投資が必要なものか、必要性が出てきたタイミングでIT投資するのか、事前にそうした仕分けをしておく発想が求められます。

 一方で、デジタル社会化によりビジネス環境自体が流動化している中で、確定的な長期のビジネス予測が不可能であることもまた事実。そのため、シナリオ・プランニングの発想をIT投資にも取り入れることが求められます。長期の事業シナリオを複数想定し、IT整備もまた複数シナリオを以って臨むことが不可欠です。

 例えば、下図のように、共通機能と事後拡張ができない機能は先行投資し、事後的なIT整備で対応できるシナリオは事業機会の顕在化を待つ。また、先行的なIT投資により市場創造が果たせるシナリオは個別判断で投資する。こうしたシナリオベースの発想によって、効率的IT投資と先行的IT投資の両立が可能になります。

出所:アクセンチュア