実行プロセスを通して
個人と組織の対話が進む

 しかし21世紀、組織にアジャイルさ(俊敏性)が求められるようになると、個人と組織の目標がつながっていることは、成果をあげるうえで格段に重要なものとなった。

 それを実現できたひとつの例が、本書で示されている。OKRとは、Objectives and Key Resultsの略であり、目標(Objectives)と主な結果(Key Results)を設定することで、プロセスを可視化し、実現しやすくする手法である。

 第1部はストーリーベースでひと通りの流れが示されている。

 冒頭では、元インテルの一員だったというエンジェル投資家のジムがメンターとして登場し、OKRのきっかけとなった、創業メンバーのアンディ・グローブとゴードン・ムーアの会話を主人公に語って聞かせる。

(ちなみに、アンディ・グローブといえば、ドラッカーに私淑し、惜しみない支援を受けていた一人。ここで紹介される「回転ドアテスト」は、ドラッカーが経営者によく投げかける有名な質問をアレンジしたものだ。)

 そうして主人公は、OKRを活用したピボット(方向転換)を決意し、チームに宣言する。そこから取り組みが始まり、OKRの立て方から、定点観測のポイント、ありがちな失敗などが時間軸を追って示されている。

 第2部は、実践にあたっての言わばTIPSであり、ポイントだけを知りたい人は、先にこちらに目を通すのもアリだ。何事も習慣化させるまでが難しい。その点、OKRは可視化しやすく、時間の区切りが明確なので、共通言語化がしやすそうだ。定性的な手法の常で、実行の段になって判断に迷う点が多々でてくるだろうが、その議論をめぐって階層間、部門間の風通しがよくなるというメリットが見込まれる。

 もちろん、本書の方法がすべてではない。既存の人事制度があるなかで、すぐに取り入れるのは難しいかもしれない。だが、かつてドラッカーが志ある日本企業に長所を見出していたことを考えれば、スタートアップ企業でなくとも実現は可能である。

 働きがいは個人だけでも作りえないし、組織が押しつけるわけにもいかない。対話によって作り上げていく際のひとつの参考となるだろう。