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コモディティ思考をマーケティング思考に転換させる
2001年末、私は大手建材メーカーのラファージュ・グループで、セメント部門のCMO(最高マーケティング責任者)に任命された。就任したばかりの私に、一人のベテラン社員がこう教えてくれた。「お客は2種類しかいません。ゴルフ好きな客と釣り好きな客です」
まさしくセメント会社の営業がいかなるものかを語っている。白髪混じりの営業マンばかりのうらぶれた世界であり、セールス・トークといっても、顧客とねんごろになるための話ばかりで、自社製品がライバルのそれよりも優れていることなど二の次である。
それもしかたのないことであった。20年前から世界中で規制緩和が始まり、1社からしか調達できないという製品などなくなってしまい、セメントもコモディティ化してしまったからだ。
ラファージュのセメント部門は、世界各地に生産拠点があり、業界大手の一角を占めているとはいえ、その市場シェアは6%にすぎなかった。顧客の大半を占める大手企業やグローバル・メーカーが調達窓口を一元化している状況にあって、営業が「主」となり、マーケティングは「従」にならざるをえない。
セメント・メーカーは、差別化やバリュー・プロポジション(提供価値)よりも、価格競争を引き起こすことなく市場シェアを維持することに懸命だった。いや、そもそも価格競争を仕掛ける余裕のある企業などなかった。
ロレアル・グループの前CEOであるリンゼー・オーウェン=ジョーンズは、「セグメンテーションによって改良できない製品など存在しない」と述べていた。幸いにも私は、ラファージュのセメント部門のCMOになって、同社の取締役も務めたオーウェン=ジョーンズの指摘を見事実証することに成功した。
我々は、新しい活動に着手した初年度に600万ドルの増益を達成し、現在は累計で1億5000万ドルに達している。製品価格で見れば、実に2%の値上げに相当する。
マーケティングなんかいらないと考えていた企業に、この機能を根づかせることは容易ではない。我々もプロジェクトをスタートさせた2002年から、あらゆる面でこの問題と格闘してきた。