国連と経団連がお墨付きと後押し

 その他、本書では世界の動きを広く調査し、SDGsが企業活動に与える影響を、ビジネス機会とリスクという面で分析している。機会とは、SDGsが設定する地球規模の課題を解決するための製品・サービスの開発であり、自社の競争力を社会的課題の解決に活かしていく方向性を示す。

 国連の報告書では、SDGsに関連した4つのビジネス分野「食料と農業」「都市と都会のモビリティ」「エネルギーおよび原材料」「健康および福祉」の下部構造に、60のビジネス領域を見出している。年間12兆ドルの価値を生み、2030年までに最大で3億8000万人の雇用を新たに創出すると試算する。一方、リスクとしては、人権や環境、労働、腐敗防止など企業が守るべき責任への世界的な監視が高まっていることをあげ、レピュテーションリスクの高まりを警告する。

 本書は、日本企業の本音にも焦点を当てる。約15年前、日本にCSR(企業の社会的責任)という概念が移入されて以来、一部の企業経営者にはモヤモヤ感があるという。「これまでも企業と社会との関係には十分配慮して経営をしてきた」「企業活動が利益を創出しているのであれば、それ自体が社会に役立っている証左であり、CSRと大騒ぎする必要はない」といった感情である。

 さらに、企業活動がステークホルダーに与えるマイナスの影響を無にすることは現実的にはできず、公害防止や顧客不満足への対応などはコストアップ要因であるという感覚も根強いという。そして、メディアやNGO、労働組合、消費者団体が、企業活動のネガティブな影響に対して告発や是正キャンペーンなどを行うことが少ない日本の風土が、上記のモヤモヤ感を醸成している。

 この状態に一石を投じたのがSDGsである、と本書は指摘する。日本企業は無謬性を重視する一方で、社会に役立っている実感も得たいと願望している。SDGsについては、国連が「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性および包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である」「民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のため創造性とイノベーションを発揮することを求める」として、お墨付きを与え、後押ししているのだ。

 そして2017年、日本経済団体連合会(経団連)が7年ぶりに改訂した企業行動憲章では、「企業は、公正かつ自由な競争の下、社会に有用な付加価値および雇用の創出と自律的で責任ある行動を通して、持続可能な社会の実現を牽引する役割を担う」とされた。

 名実ともに、SDGsを考慮した経営が必要ということになるのである。こうした経緯や論理を踏まえると、納得感と責任感をもって、SDGsを考慮した経営や活動に取り組めるようになるものである。本書は、タイトルの通り、ビジネスパーソン向けに、SDGsについて平易かつ論理的に書かれている、役にたつ教科書である。