ウォルマートは今度こそ
イメージを回復できるか

 ウォルマートは長年にわたり、低賃金と貧弱な福利厚生というかなりのマイナスイメージを世間に与えてきた。数万人の店舗従業員が生活保護を受けながら働き、就業時間が限定され、あまりにも多くの従業員が日常生活に支障を来すほどに予測できない就業スケジュールを押し付けられているとの悪名が高かったのだ。

 しかしここ数年、同社は労務政策を見直す兆しが見え始めている。すでに、現場労働者の賃金を(フルタイム社員の平均時間給を13.85ドルに)引き上げ、福利厚生を厚くし、研修を拡大し、「私たちは、米国小売業で働く労働者が本来持っている能力をフルに発揮できる環境づくりに全力を尽くします」といった声明まで発表している。

 多くの州でウォルマートの社員がいまなお日々の糧にも事欠いている実情を考えれば、同社がこうした措置にどれだけ真剣に取り組んでいるのかはまだはっきりしない。良好な雇用市場の中で労働者を引き付け、つなぎ止めておくための、そして会社の印象をよくすることで、人事政策を嫌ってウォルマートでの買い物を避けてきた顧客を呼び戻すための、その場しのぎの措置なのか。それとも、本格的な方針変更の意思表示なのか。

 ウォルマートUSの社長兼CEOとのインタビューは、後者を示唆している。ニュージーランド人のグレッグ・フォーランは、2014年8月に社長に就任するまでウォルマート・チャイナを率いており、ゼイネップ・トンの「よい職場」戦略(グッド・ジョブズ・ストラテジー)を支持している。これは小売業などサービス業の現場で働く労働者に権限を与えて投資し、オペレーションを改善して働きやすい職場をつくり、現場での生産性と顧客対応の質を高められるよう支援するモデルだ。

 コストコ、トレーダー・ジョーズ、クイックトリップ、マッドベイ、メルカドーナ、クエスト・ダイアグノスティックス(のコールセンター)など、この戦略を追求している企業は少数にすぎない。しかし、もしウォルマートUSがこの道を歩み続けると、同社の100万人強の従業員とその影響力を考えれば、時代の転機が到来するかもしれない。

 ウォルマートの事例に触発され、あるいは魅力を感じて後に続く企業が出てくるようになれば、1914年にヘンリー・フォードが工場労働者の賃金を倍以上に引き上げて日給5ドルとした決断に匹敵する、米国経済にとてつもない影響を及ぼすはずだ。